「ああ、それは間違いない。風邪薬のカプセルより若干大きいが、飲み込む分には問題のない大きさだ。それでいて、半径五十メートル以内は軽く吹っ飛ばす威力がある。その上、時限装置もリモコンもが付いている。しかも、ステルス性なんでX線にも引っ掛からない」
緒方が、自慢げに説明する。
CIAは、そんな物騒なものを開発していたのか。そんなものが、ロシアや赤い金 貨の手に渡ったら、とんでもないことになるぞ。
これなら、世界の三凶が揃い踏みしても不思議ではない。
桜井は納得した。
「そんなものを、奴らの手に渡すわけにはいかん。なんとしてでも、阻止しなくては」
我知らず、小さく呟いていた。
思わず強く握りしめた拳が震えている。
「そんなことは知ってるわ。私が訊いてるのは、本当にそんな威力があるのかってこと」
ターニャの声が険しくなった。
その声には、露骨に嫌悪感が滲んでいる。
緒方の下卑た言い方に、心底むかついているのだろう。
ターニャはプロ中のプロである。
そんな連中が最も嫌うのは裏切りだ。
いくら諜報機関が卑劣な世界だとはいえ、裏切りは別だ。
卑劣な世界であるが故に、仲間うちが信用できないと自分の身が危ない。
だから、裏切りを働いた者は容赦なく抹殺する。
そうしなければ、最低限の秩序が保てないからだ。
桜井が見るところ、カレンは別だ。
ターニャも、カレンに対しては、嫌悪感を抱いているようには見えない。
それどころか、未だにカレンをライバル視しているようだ。
カレンは、正々堂々と宣言して、組織を抜けたと聞いている。
その後、何度も組織に命を狙われたが、それは裏切者の処刑ではなく、秘密が漏れるのを恐れたためだ。
それだけ、カレンが裏で歴史を作り変えてきたということだろう。
それにしても、CIAも馬鹿なことをしたものだ。
カレンは、自ら秘密を漏らしたりはしない。カレンと接した印象から、桜井はそう確信している。
カレンを知る、CIAのほとんどの連中もそう思っていたのだろうが、蟻の一穴でも塞いでおこうという諜報機関の鉄則に従って、カレンの暗殺が試みられたのであろう。
その結果、あたら優秀なエージェントを何人も失ってしまった。
そのCIAも、今ではヒューストンが依頼をするようになっている。