「まるで、サーカスのライオンみたいやな。はら、火の輪くぐりの」

 小声で囁きながら、カレンが開けた扉から悟が入ってくる。

「私を、サーカスのライオンと一緒にしないでくれる」

「そうやな、悪かった。カレンにかかったら、ライオンも泣いて逃げるもんな」

「あなたのポケットに、あの爆弾を突っ込んで爆発させてやるから」

 こんな時でも、二人はいつもと変わらない。

 正面右手に階段があり、奥にはドアがある。

一階はその一部屋だけみたいだ。

「とりあえず、あの部屋から確認しましょ」

 どうすると目で尋ねる悟に小声で返事してから、カレンが静かに奥へと歩き出した。

 探知機で調べた結果、この部屋には爆弾が仕掛けられていないとわかった。

 カレンがノブをそっと掴み、静かに回した。

 鍵は掛かっておらず、ノブが回りドアが開いた。

 中はガランとしていて、何もない。

 カレンが首を振り、右手人差し指を上に向けた。

 悟が無言で頷き、二人は二階へと続く階段へと向かった。

 二階の構造も一階と同じだった。

 部屋も一階と同じで、ドアには鍵が掛かっておらず、中には何もなかった。

 そうして、二人は三階へとやってきた。

「今度は、鍵が掛かってるわ」

 悟の耳元で囁くと、またポケットから何やら取り出した。

 それは微妙に太さの違う、長さ十センチくらいの針金のような束だった。

 小さな輪っかに、十本ほどぶら下がっている。

 カレンはドアの鍵穴を観察したあと、その針金の束を暫く見つめていた。

 やがてその内の一本を選ぶと、先端を器用に折り曲げて鍵穴に差し込んだ。

 そのまま針金を少し動かすと、ものの十秒と経たないうちに開錠してしまった。

 さすがの悟も、中に敵のいることを考えて、大人しく黙っていた。

 が、心の中では、言いたいことが一杯溜まっていた。

 カレンが静かにノブを回し、ドアを薄めに開けてから、中の様子を窺う。

 誰もいないのを確認すると、ドアを大きく開けて、中へと足を踏み入れた。

 悟も、カレンに続いて部屋の中へと足を踏み入れた。

 二人が部屋を見回す。

 これまでの部屋と同様、何もなく空虚さだけが漂っていたが、二点だけ違いがあった。

 ひとつは、どうしたことか、窓がコンクリートで塞がれていることだ。

そしてもうひとつは、壁に一枚の絵が掛かっていることだった。

 額縁の裏に何か隠されていないか確かめようと、悟が額縁をずらしたとき、部屋のドアがバタンと閉まった。

「しまった」

 言うや、カレンはドアに駆け寄った。

ノブを捻ってみたがビクともしない。

「罠よ」

 カレンが言ったとたん、天井の通気口から白い煙が噴き出してきた。

「青酸ガスよ。サトル、息を止めて」

 匂いを嗅いだ途端それとわかったカレンは、素早く言ってから悟の許へ駆け寄った。

 みるみるうちに、ガスが部屋中に充満していく。

 このままだと、数分もしないうちに、悟とカレンの人生は終焉を迎えることにな。