なにか、大切なものを失くしてしまった気がした。

 自己保身のために、ついた嘘。

 それは、些細な嘘だった。

 しかし、今は自分を責めている。

 どうして、本当のことを言えなかったのか。

 私は、卑怯者だ。

 その思いが、数日経った今でも拭えない。

「嘘をついちゃダメよ」

 幼い頃から、両親にそう躾けられてきた。

 大人になるに従って、正直さが薄れてきた。

 正直では、世間は渡っていけない。

 そんな思いが募ってゆくばかりだった。

 そして、ついに嘘をついてしまった。

 自分の非を認めたくない、悪者になりたくない。

 そんな思いでついた嘘だったが、こんなにも自分を苦しめることになろうとは。

 嘘というのは、一番自分を傷つける。

 それが、よくわかった。

 両親が言っていたことは、自分を裏切るなということだったのだ。

 自分を裏切っていたら、幸せは来ない。

 自分のために嘘をつかないでおこうと、心に誓った。