「どうやら、嘘ではなさそうね。いいわ、信じてあげる」

「そういつは、どうも」

 桜井がニヤリと笑う。

「信じてくれたんなら、そいつを下ろしてくれないか。怖くて、今にもちびりそうなんだ」

 自分に向けられた銃口を顎で指した。

 両手は上げたままだ。

「レディに向かってなんてことを言うの。第一、あなたはそんな玉じゃないでしょ」

 つまらなさそうに言ってから、ターニャが銃口を下に向けた。

 しかし、いつでも撃てるよう、引金に掛けた指はそのままだ。

「ありがとう」

 桜井が上げていた両手を静かに下ろすと、ターニャに断りもせず、勝手に椅子に腰を下ろした。

「話というのは……」

 言いかけた桜井に、ターニャが冷たい声で遮った。

「その前に、もう一つの質問に答えてくれない」

 桜井と相対するように、ターニャがベッドの端に脚を組んで座った。

 しかし、ターニャに油断はない。

 右手を上にして、交差させた両手首を膝の上に乗せている。

 右手には銃を握ったままだ。

 桜井が何か仕掛けてきても、いつでも反撃できる態勢だ。

 桜井にその気がないとわかっていても、ターニャは決して隙をみせるようなことはしない。

 これが、ロシア最強と言われる所以である。

「やれやれ、用心深いことだ」

 桜井が苦笑する。

「内調はいつだって、君のような大物の所在は掴んでいるのさ」

と、とぼけてみせた。

「フン、いつから、日本の情報組織はそんなに優秀になったの」

 ターニャが鼻で笑った。

「やはり、だめか」

 桜井が軽く肩をすくめた。

「種をあかせば、それさ」

 ターニャの履いている靴を指差した。

「昨日の銃撃戦のときに、君の靴の裏側に発信機を付けておいたんだ」

  ターニャが驚いて靴の底を見た。

 地面に着かない土踏まずの部分に、ガムのようなものが付いている。

 その表面には、銀色をした金属が顔を覗かせていた。