「そう、パリやロンドン、それに上海なんかに」
「凄いな。一体、どんくらいの都市に隠れ家を持ってるんや」
「秘密よ」
カレンが笑って答える。
「また、秘密か」
「言ったでしょ。美女には謎がつきものだって」
「そうやったな」
悟がげんなりした顔をする。
「それにしても、それ全部、自分で用意したんか?」
気を取り直して、悟が尋ねた。
「だって、組織なんて信用できないもの」
カレンが決して血も涙もない人間でないことは、悟が一番わかっている。
それなのに、これまで組織の命令とはいえ、随分と非情なミッションを行なってきた。
そんなカレンが、今は組織を信用できないと言っている。
確かに、悟と一緒になると言って組織を抜けようとしたとき、CIAはカレンを抹殺せんものと、数多の殺し屋を差し向けてきた。
しかし、そのようなことは、カレン自信もよくわかっていたはずだ。
なぜなら、カレン自身も、自分の都合で組織を抜けようとした者を幾人か抹殺してきたことがあるからだ。
それは、カレンの口から聞いたことがある。
悟は、カレンが組織を抜けようとしたのは、自分と知り合ったからだけではないのではないかと思った。
きっと何か、悟も知らないような事情があるのかもしれない。
一体、こんな気のいいカレンが、どうしてこのような道を選んだのか。どうして、 自分のような人間を気にいったのか。そして、組織を抜けたのか。
やはり悟にとって、カレンはまだまだ謎の多い女性である。
「美人の条件か」
悟が、ポツリと呟く。
「え、なに?」
悟の呟きにカレンが反応した。
「いや、なんでもあらへん」
悟は笑って誤魔化した。