「うむ、君の言う通りかもしれんな。しかし、迂闊だった。あのとき、もう少し調査をすべきだった」

 高柳が悔しそうな顔をしてみせたが、桜井にはそれが白々しい演技にしか見えなかった。

「それこそ、悔やんだって仕方ありません。オコーナーが裏切ったのなら、持ち出した物は、きっと何かとんでもないものに決まっています。今は、一刻も早く、オコーナーの所在を掴むことです」

 桜井が冷たく言い放つ。

「そうだな、君の言う通りだ。よし、私は公安と陸幕に当ってみよう。そのときの大使館の様子を詳しく聞きだしてみる。それと、オコーナーの所在を掴むよう努力してみよう」

 努力じゃあねえ、しっかりと掴みやがれ。

 そう思った桜井だったが、そんなことはおくびにも出さず、「私は独自のやり方で当ってみます」そう答えるに止めた。

「わかった。なにかわかったら知らせる」

「お願いします」

 そう言って、高柳の部屋を退出した桜井の胸には、新たな疑惑が生じていた。

 大使館の不穏な動きを掴んでおきながら、どうして、その真相を究明しようとしなかったのか。

 なぜ、ヒューストンの来日と大使館の騒動を結び付けなかったのか。

 いくら内調が甘いとはいえ、それだけの情報を掴みながら放置しておくとは、どう考えても解せない。

 何かある。

 桜井は立ち止まって、今しがた出てきた情報官室を振り返った。

 奴は、何かを隠している。

 桜井の勘が、そう告げていた。

 引き返して、高柳を問い詰めようか。そう考えたが、思い止まった。

 そんなことをしても無駄だろう。

 ああ見えて、高柳は相当の狸だ。

 とても、本当のことは言うまい。

 とにかく、早急に真相を掴むことだ。

 桜井はある場所へと足を向けた。