黒猫が、目の前を横切った。

 昔なら縁起が悪いと、嫌な気分になっただろう。

 子供の頃から、黒猫は縁起が悪いと教えられてきた。

 黒猫にとっては、迷惑な話だ。

 だが、今は違う。

 目の前を横切られてもなんとも思わない。

 なぜなら、家に黒猫がいるからだ。

 その黒猫は、衰弱しきって自宅の前に横たわっていた。

 見かねた妻が、家に入れて一生懸命看病した。

 その甲斐あってすっかり元気になり、今では部屋中を元気に走り回っている。

 飼ってみると、可愛いものだ。

 これまで、黒猫を忌み嫌っていた自分が、馬鹿みたいに思えた。

 猫にもいろんな毛並みがある。

 黒猫は、ただ色が黒いだけだ。

 俺の周りでも、未だに黒猫が縁起悪いと思い込んでいる奴がいる。

 迷信とは怖いものだ。

 野良猫の命は短いという。

 今横切っていった猫は、何歳くらいだろう。

「元気で生きろよ」

 心の中で黒猫に声をかけた。