「そうか。それは、大変だったな」

 桜井の報告を聞き終えて、高柳が労いの言葉をかけた。

「新井と竹田を死なせたのは、俺の責任です」

 桜井が悔しさを滲ませている。

「悔やんだって仕方なかろう。そんな事態になるなんて、誰も予想出来まいよ。それより、ターニャが言った探し物とは何なのか、それを早く探り出すことだな。そして、奴らより先に我々がそれを手に入れることが、新井と竹田にとって、何よりの供養になるとは思わんか」

「そうですね、仰る通りです」

 こんな奴に慰められるとは、桜井は我ながら情けない思いだった。

「それで、奴らが探している物は何だと思う?」

「それは、わかりませんが……」

「何か、考えがあるのか?」

「これは、俺の推測なんですが」

 そう前置きしてから、桜井は自分の考えを話し出した。

「CIAの誰かが裏切って、内部から何か重要な物を持ち出したんではないでしょうか。それを、赤い金貨に売り渡そうとしているんじゃないかと思うんです」

「それで」

「それで、CIAはカレンに、裏切り者の処刑と持ち出された物の奪回を依頼した。その情報を掴んだ奴らは、そうはさせじとカレンの暗殺を企てた。裏切り者が誰かはわかりませんが、どうやらカレンの行動が漏れています」

「ターニャは?」

「やはり、CIAの誰かが内通しているか、それともロシアの情報収集力が優れているか、それはわかりませんが、相手が劉なのでターニャに出番が回ったんでしょう。そうまでして、横取りする価値があるんじゃないですか」

 高柳が目を閉じて、桜井の推測を吟味する。

「フム、筋は通っているな」

 納得するように頷いたが、「待てよ」何かを思い出したように目を開いた。

「そういえば、先日、アメリカ大使館で何か不穏な動きがあったようだと報告があったな」

「どんな動きです?」

 桜井の目付きが鋭くなった。