「サトル」
カレンの雰囲気がいつもとは違って、えも言われぬ色気を発散している。
そんなカレンを初めて見る悟は、ますますカレンの横顔に魅入られていった。
「なんや?」
高まる胸の鼓動を抑えつけて、悟はわざとぶっきらぼうに返事をした。
「愛してる」
この一言で、悟の努力は無に帰した。
「き、急に、何を言いだすねん」
照れを隠しきれず、悟の頬がみるみる赤く染まっていく。
愛してるだの好きだのという言葉はいつも聞き慣れているはずだが、今のように、潤んだ瞳でしっとりと言われては、さすがの悟も動揺してしまった。、
まして、カレンの妖しい横顔に見惚れていたところなので尚更だ。
そんな悟を横目で見たカレンは、道端に車を停めた。
「どうしたん?」
悟は我に返り、尾行車がいるのかと思って後ろを振り向いた。
「こっちを向いて」
カレンは、悟の頬を両手で優しく包み自分に向かせると、顔を近づけて唇を重ねた。
カレンの、こんな激しい口づけは初めてだ。
いつしか悟も、カレンに応えていた。
しばらくそうしてから、カレンが車を発進させる。
目的地に着くまで二人は無言だった。
だが、車内は幸せに包まれていた。
「ここが、隠れ家か」
悟が目にしているのは、普通の戸建である。
その家は、渋谷の住宅街にあった。
渋谷は東京を代表する街のひとつであり、東京でも有数の人が集まる場所だ。
最先端の流行やファッションに魅せられて、全国から若者が集まってくる。
ハリウッド映画にも登場したスクランブル交差点は、日本一往来が多いので有名だ。
しかし、賑やかなのは駅周辺だけで、少し歩くと閑静な住宅街となっている。
東京は大都会と言われているが、ビジネス街の一角を除き、山手線の大部分の駅は、賑やかなのは駅周辺だけだ。
少し離れてしまえば、閑静な住宅街だったり、下町だったり、時代に取り残されたような町があったりする。
まことに、不思議な都市である。