時勢は動いている。
それを知らない歳三ではない。
しかし、新選組のときに徹底的に長州浪士を取り締まってきた。
今更降伏したとて、命が助かるわけはない。
また、助かるとしても、降伏しようなんて気持ちはさらさらなかった。
新選組を結成したときから、命は捨てた。
武士ではない自分が、武士になった。
昔からの武士の腰が据わらないので、自分たちが動乱の拠点である京都の治安を預かることになった。
幕府が降伏しても、歳三は最後まで戦い続けるつもりでいる。
そうやって、東北から蝦夷まで転戦してきた。
歳三は、蝦夷を独立政府にできるわけがないと思っていた。
官軍が、それを許しておくわけはない。
兵力も、圧倒的に違う。
冬が終われば、その兵力をこちらに向けてくる。
今、官軍に逆らっているのは、この函館だけなのだ。
歳三の読み通り、雪が溶けると官軍が大挙して攻めてきた。
函館にこもった面々もよく粘ったが、多勢に無勢、衆寡敵せず、敵うわけがない。
榎本が描いた夢も潰えようとしている。
歳三は不敵な笑みを浮かべ、独り馬にまたがった。