悟とカレンはCIAにも知られていない、カレンのセーフハウスに向かっていた。
車も、地味で目立たない白のワゴンに乗り換えている。
「それにしても凄かったな。まるで、戦争映画でも見てるみたいやったで」
悟の口調はいつも通りで、さして興奮している様子もない。
手を頭の後ろで組んで、ゆったりとシートに凭れてリラックスしている。
「サトル」
呼びかけたカレンの口調は、いつになく湿っていた。
「なんや?」
悟が、カレンに顔を向けた。
運転しているカレンの横顔は、見事なまでに美しい。
いつも見慣れているはずなのに、悟の目はカレンに釘づけになった。
「私、時々、あなたがわからなくなるわ」
「なんで?」
「だって、あんな激しい銃撃戦の後でも、いつもと変わらないんだもの。緒方を見たでしょ。訓練を積んだプロでもよほど場数を踏んでいなければ、ああなるのが当たり前なのよ。まして、サトルは撃たれたのよ。運よく助かったからいいようなものの、死んでいた可能性だってあるのよ」
「ま、こうやって生きてるからええやん」
「あなたの、そんなとこが好きよ」
思いがけずカレンが真剣な口調で返してきたので、悟は戸惑った。
返す言葉が見つからない。
「あなたに助けられたのは、これで二度目ね」
しみじみと言うカレンの目は、愁いを帯びていた。
カレンは、悟が身を挺して自分を庇ってくれたことには、素直に嬉しい気持ちを抱いている。
しかしそれ以上に、自分の油断を悔いていた。
一歩間違えば、最愛の人を死なすところだったのだ。
「気にするな、夫婦やろ」
悟が、こともなげに言った。
その口調に、恩着せがましさは微塵もない。
カレンが微笑した。
その微笑は、とても幸福感に包まれたものだった。