「俺はな、あいつがいると、カレンは日本の不利益になるようなことはしないんじゃないかと思っている」

「どういうことです?」

 緒方が顔を上げた。

「俺には、あいつがカレンをコントロールしているように思えてならないんだ」

「でも、どうみても杉村は、カレンに従っているように見えますが」

「見た目はな。しかし、あいつはカレンに対して、随分言いたいことを言っていたよな。お前も、戦闘時のカレンを見ただろう。あんな女が、いくら惚れた男とはいえ、そう暴言を許すと思うか。意識的か無意識かは知らんが、間違いなく主導権はあいつが握っていると、俺は思う」

「そんなもんですかね。しかし、それとカレンが日本の不利益になるようなことをしないというのと、どう関係があるんです」

 こいつは一度、一から叩き直す必要があるなと、桜井は思った。

「あいつが、俺たちに言ったことを覚えているか?」

「政治家がどうしたとかいうやつですか」

「そうだ。あいつは、今の日本の立ち位置や内情をよく理解している。それに、日本人としての誇りも持っている。だから、カレンに好き勝手はさせないということさ」

「だといいんですが」

「俺たちもずらかるぞ」

 緒方の言葉を聞き流して、桜井が歩き出した。

 サイレンの音は、もうそこまで迫っている。

 桜井は一度、新井の死体に目を向けてから外へ出た。

 扉の前には、竹田の死体が転がっている。

「二人の死体をどうします?」

 桜井の後を追って出た緒方が尋ねた。

「放っておくさ。不良外国人とどこかのヤクザが争ったということで、マスコミには流れるだろう」

 こともなげに、桜井が言ってのける。

「しかし、それではあまりに」

「いいか、俺たちは内調の中でも、特別な任務についているんだ。誰も、俺たちの身元なんざ保障してくれやしない。途中で倒れても、無縁仏になるだけさ。それどころか、警察に追われて射殺されるかもしれないんだぞ。よく見ておけ、こいつらの姿は明日の俺たちの姿だ。その覚悟がないのなら、今すぐ辞めちまえ」

 言い捨てて、桜井はその場から立ち去っていった。