悟が、空中で手にしていた銃の引鉄を引く。
男の手からも、銃弾が発射された。
二発の銃声が木霊する。
男の放った銃弾が悟の腹に命中し、衝撃で悟の身体が地面に叩きつけられた。
しかし、悟の放った弾も男の右腕をかすったと見え、男の手から拳銃が落ちた。
振り返ったカレンの目に、悟が吹っ飛ぶ姿が映った。
「こん畜生!」
カレンは即座に男に向けて発砲したが、そのときには男は高さ三メートルはあろうかという窓に軽々と手をかけており、カレンの放った弾はむなしく壁にめり込んだ。
ターニャと桜井も男に狙いを付けたが、二人が引鉄を引くよりも早く、男は窓から飛び降りた。
飛び降り際に、一瞬カレンたちに向けられた男の顔は、不気味なほど無表情だった。
「まるで、化け物だな」
桜井が、誰にともなく呟いた。
確かに、カレンの銃弾をかわし、桜井とターニャに発砲する暇も与えずに、この場を逃げ去っていった素早さは人間技ではなかった。
「サトル」
カレンが悲鳴に近い声をあげながら、悟に走り寄った。
桜井とターニャも後に続く。
ここでも、緒方だけが蹲ったまま呆然としていた。
「俺が殺られたら、仇をとってくれるんとちゃうんか」
言いながら、悟が身を起こした。
これには三人とも驚き、一瞬足が止まった。
「サトル、あなた… 撃たれたんじゃ…」
カレンが信じられないという顔をした。
桜井とターニャも、呆けたように悟を見つめている。
「いや~ カレンのくれたお守りは効果があるわ」
そう言って、悟が服の下から二冊の雑誌を取り出した。
二冊目の雑誌の真ん中に、弾がめり込んでいる。
「それって…」
「そうや。カレンが防弾になるって、俺にくれたやつや」
撃たれたというのに、悟は無邪気に笑っている。
「ああ、サトル」
カレンが無上の喜びを顔一杯に溢れさせ、両手を広げて悟の胸に飛び込んだ。