「小口径やったら、一発で仕留めれんかもしれんやん。そうしたら、反撃を喰らうやろ」
「それは、素人の場合でしょ。人はね、どんな大男でも、急所を狙えば一発で倒せるものよ。それができるのがプロってものなの。それに、大口径だと反動も大きいから、狙いをはずしてしまう可能性があるし、音も大きいでしょ。だから小口径で十分なわけ。もっとも、戦争になれば別だけどね」
実際カレンは、ホテルで五人もの襲撃者を一瞬のうちに倒している。
それも、遠ざかっていく者の背中から心臓を狙い撃ってだ。
サイレンサーを装着すると、命中精度が落ちる。
それでもなお、そんな芸当を難なくやってのけるカレンの腕は神業に近い。
喫茶『カレン』の地下には、完全な防音を施した射撃場がある。
腕が鈍るといけないからと、カレンが造ったのだ。
そこで、カレンはよく射撃練習をしており、悟も強制的に練習させられている。
万が一に備え、せめて銃だけは撃てるようにとのカレンの配慮からだ。
だから悟は、先ほどカレンが見せた腕前が、どれだけ凄いことかということを十分わかっていた。
口には出さないものの、悟は改めてカレンがプロ中のプロであることを思い知らされていた。
そんなカレンの言葉には、確かな説得力があった。
「ふ~ん、そんなもんか。俺は、おっきな方がいいと思っとったわ。マグナムなんかでバンバンって」
悟が銃を撃つ真似をした。
「マグナムなんて、素人が下手に扱うと肩を壊すわよ。あんなものを片手で連射して正確に敵を倒すなんて、映画の中だけよ。私たちの世界では無用だわ」
最後の方は吐き捨てるような口調だ。
カレンからしてみれば、いくら娯楽とはいえ、いとも簡単にマグナムを扱うなんて荒唐無稽なことは気に入らないのだろう。
「そうなんや。しかし、オコーナーを見つける前からこんだけようけ襲われてたら、これから先、身が持つんかいな」
サンドウィッチを食べ終えた悟が、コーヒーを飲みながらぼやいた。
「大丈夫よ、私がいいお守りをあげるわ」
そう言って、悟の前に雑誌を二冊差し出した。
それは、無料の求人案内誌だった。