「つい四時間ほど前、名神高速でトレーラー二台が衝突、炎上するという事故があった。スピードを出し過ぎていたトレーラーが、カーブを曲がりきれずに山手の壁に激突して横転、後からきたトレーラーがそれを避けきれず、追突して炎上。という内容でマスコミには発表されたが、現場にはRPG22が落ちていた。発射された後のな。調べたところ、トレーラが衝突した壁には、爆発の痕跡が見つかったそうだ」

「それは、本当ですか?」

 桜井の目付きが鋭くなる。

 その視線にますます圧倒されて、高柳が居心地悪そうに、尻をもぞもぞとさせた。

「本当だ。昨夜カレンの店に、いわくありげな二人の白人が訪ねてきた。その二人が店から出て行ったあと、暫くして、カレンが東京方面に向かったという報告が、カレンを張っていた者から入っている。訪ねて来たのは、どうやらヒューストンらしい」

 引退したとはいえ、カレンは未だ危険人物として扱われている。

 引退後、CIAが送り込んだ暗殺者を何人も返り討ちにしたことや、最終的には古巣と和解したことを、内調は知っている。

 なにか事が起これば、CIAに協力するかもしれない危険な人間を、内調が野放しにしておくわけはない。

 密かにエージェントを張りつかせて、日々カレンの動向を監視していた。

 出来れば日本から出ていってもらいたいところだったが、カレンは日本ではなにもしていない。

 日本人と結婚したことで日本国籍も取得しているし、まっとうな生活を送っているので、追い出す口実が見つからないのだ。

 監視の者からヤクザ狩りの報告は入っているが、これとて正当防衛を主張されたらどうにもならない。

 それに、強引に国外退去に持ち込もうとすると、彼女がどんな手段に出てくるかわからないので、迂闊に手が出せない状態だった。

「ヒューストンが? 奴が、わざわざ日本へやってきたんですか」

 桜井が訝しげな顔をする。

「どうやら、そうらしい」

 またなにかきつい口調で問われるのではないかと、内心ではびくびくしていた高柳が、安堵した口調で答える。

「で、そいつは、事故の瞬間を目撃していたんですか?」

「いいや。カレンの車には発信機を取り付けてあったので、その者はカレンに気付かれぬよう、かなりの距離を置いて尾行していたらしい。しかし、途中で事故のため通行止めに合い、足止めを食ったと言っている」

「その事故は、トレーラーの事故ではない」

「そうだ、現場より三十キロも手前だ。事故だというのに警察車輌は見えず、対向車線にも一台も車が走っていなかったので、何か不審なものを感じたそうだ。調べてみると、反対車線も、トレーラーの事故現場から二十キロ手前で、事故のため通行止めになっていた。もちろん、両方とも事故なんか起こっちゃいない」

「すると、何者かが事故を装って、両方の車線を通行止めにしたというわけですな。その間に、トレーラー二台を使ってカレンの車を襲撃したと」

「我々は、そう推測している」

「現場にRPGが落ちていたとすると、相手はロシアですかね。しかし、なんでCIAがロシアと」

 腑に落ちない顔で、桜井が首を捻る。