「えっ、そうなん。アメリカにはないん?」
「あるわよ」
悟の驚き具合が面白かったのか、カレンが笑いながら答えた。
「それやったら、なんで、それを使わへんのや?」
「だって、RPG22はコンパクトだから便利なのよ。別に戦争するわけじゃないから、そう何発も撃てるものなんて必要ないでしょ」
「そうか、それは言えてるな。でも、ロシア製の武器なんて、よう手に入ったな」
「ルートさえ掴んでおけば、どこの国の武器であろうと手に入るわよ。たとえ、日本でもね」
命を落としかけたというのに、二人の会話はデートを楽しんでいる恋人同士のように朗らかだ。
二人の感性は、とても常人のものではない。
「ふ~ん、日本も物騒になったもんやな」
「それに気付いていないのは、日本国民だけよ」
「そうかもしれんな。俺もカレンと付き合うまでは、日本だけは平和やと思っとったもんな。でも、あのRPGを捨てたんはまずいんとちゃうか?」
「大丈夫よ。事故として処理されるから」
カレンが自信を持って言い切る。
「それはないやろ。あの山の砕け方と、RPGの抜け殻が見つかったら、誰がどう見ても事故とは思わへんやろ」
「抜け殻っていいわね」
悟の言い方がおかしくて、カレンは笑った。
が、直ぐに真顔に戻った。
「さっき、日本が平和ではないことに国民は気付いてないと言ったけどね、気付きたくないというのと、気付いてほしくないというのが本当のところだと思うわ」
「それって、どういうことや?」
カレンの言ったことが事件にならない理由とどう繋がるのか、悟にはまったく理解できなかった。
「日本の国民はね、テロや戦争なんてよその国の出来事で、自分の国でそんなことが起こるなんて、まったく想像もしていないわけ。だから、もしそんなことが自分の国で起きたなんて知ったら、マスコミは騒ぎ立てるわ、国民はヒステリックになるわで、それはもう、大パニックになるでしょうね。そうなったら、政府としても対応しきれないのがわかっているから、事実をひた隠そうとするに決まってるわ」
確かに、カレンの言う通りだろう。
日本でテロでも起ころうものなら、平和に慣れている日本人には大きな衝撃に違いない。
マスコミも国民も、こぞってヒステリックに騒ぎ立てるのは目に見えている。
ましてや、高速道路でRPGなんて物騒なものをぶっ放したとなれば、これはもう、テロでは済まされない。
日本は太混乱に陥るだろう。