トレーラーの後部バンパーが、ハマーの鼻先を掠める。
カレンのブレーキが一瞬遅かったら、ハマーはトレーラーに衝突されていただろう。
いかなハマーとはいえ、十トンを超えるトレーラーに衝突されたら無事では済まない。
「これでも、気のせいだと思う?」
カレンがチラリと悟を見て、軽くウィンクしてみせた。
「そうやな、カレンの言う通りやったな。それにしても、ようタイミングよくブレーキを踏んだもんやな」
落ち着いた口調で、悟が言う。
「だって、敵の手の内は見えているんだもの」
勝ち誇った様子もなく、カレンは実に淡々とした口調で答える。
「でも、安心してられないわよ。ほら、もう一台後ろからきたわ。挟み討ちにして、押し潰そうってつもりね」
カレンの言う通り、後ろからもう一台、大型のトレーラが猛スピードで近づいていた。
大型のトレーラーに挟まれては、いくら頑丈なハマーとはいえたまったものではない。
「今度は、さっきみたいにはいかんやろ。どうするんや?」
相変わらず、悟の口調に緊張感はない。
「そうね、どうしようかな」
このような状況でも、カレンは楽しそうだ。
先ほどよりも、一層うきうきとした口調になっている。
カレンの目は、前方のカーブに注がれていた。
道は、落石防止用のコンクリートで固められた山の斜面に沿うように、左へ緩やかな曲線を描いている。
「サトル、後部座席のシートを上げて、中に入っている筒を取ってくれる」
言われるままに悟は後ろへ移動し、シートを上げた
「座席に、こんな仕掛けしとったんか」
呆れた声を出しながら、悟は筒状のものを取り出した。
「この筒は、一体なんや?」
筒を持って助手席に戻った悟が、もの珍しそうにそれを眺めた。
「RPG22よ」
RPG7という、中東戦争中によくニュースで取り上げられて有名になった携帯型の対戦車砲があるが、RPG22はその使い捨て仕様である。
「先端に付いているピンを外して、筒を引っ張って」
「どっちが先っぽや?」
そう言われても、前も後ろも似たようなものなので、悟には判断がつかない