「オーケー。この依頼、引き受けるわ」
もっとごねるのではないかと思っていたヒューストンは、カレンが意外にあっさりと引き受けたのに拍子抜けしたが、同時に安堵もした。
カレンとしては、報酬などどうでもよかった。
ターニャーと劉と殺りあえるのが楽しみで、最初から引き受けるつもりだったのだが、それでは面白くないので、わざとふっかけたのだ。
「引き受けてくれて嬉しいよ」
そう言ったものの、カレンの行動に不安を拭いきれないヒューストンは、「破壊と暗殺はあくまで最後の手段だぞ。いいな、それを絶対忘れるな」そう念を押さずにはおれなかった。
「心配いらないわ。引き受けた以上、私に任せて」
爽やかに、カレンが答える。
「そうと決まったら、早速東京に行くわよ。サトル、二、三日休業の張り紙を張っといて」
まるで旅行に行くかのような気軽さである。
それを聞いて、ヒューストンが慌てた。
「ちょっと待て。君は、サトルも連れて行くつもりか?」
「当然よ。私とサトルは一心同体なの。それに、サトルを一人にしておいたら、どんな奴に狙われるかわからないでしょ。なにせ私は、あなたたちのお陰で、いろんな組織に恨みを買っているからね。だから、サトルを守るためにも一緒に行くのよ」
さも当然というように言ってのけるカレンに、ヒューストンは返す言葉が見つからなかった。
何を言っても無駄だと思い、カレンを説得するのを諦め、代わりに悟に向かって訊ねる。
「君は、それでいいのか?」
悟は返事をする代わりに、肩をすくめてみせた。
この男は一体、何を考えているんだ。まったく動じているようでもないが、頭がおかしいのか?
ヒューストンには、悟の態度が理解できない。
それでも、悟に対して幾分かの同情を覚え、ひとつ提案を出した。
「なあ、カレン。サトルはこちらで保護するから、君は単身で行動したらどうだ。その方が、君としても動きやすいのではないのかね」
「お断りよ。サトルは、この私が惚れた男よ、足手まといなんかにはならないわ。それに、私はサトルと離れるのが嫌なの」
何という身勝手な言い草だろう。
悟の意向を聞こうともしない。
呆れたヒューストンが、同情するような目で悟を見る。
しかし、当の悟はにこにこと笑っている。