ある国の貧しい村、そこに一人の若者がいた。
その若者はとても正直者で、木こりで生計を立てている。
両親は早くに死んで、今は独りで暮らしている。
もう結婚してもいい頃だが、村にはそれほど若い娘はおらず、いたとしてもよその村のお金持ちのところへ嫁いでしまう。
青年にとっての一番の宝物は斧だ。
青年は毎日仕事が終わると、斧を丁寧に磨いた。
ある日、湖のほとりで木を伐っていると、どうしたことか斧が手から滑って飛んでゆき、湖に落ちてしまった。
斧がなければ木を伐れないし、新しい斧を買う余裕もない。
青年は困って湖のほとりに立ち尽くしていると、湖から若く綺麗な女性が現れた。
手には金でできた斧と銀でできた斧と青年が落とした斧の三本が握られている。
「あなたの落とした斧はどれですか?」
湖の精の問いかけに、青年は迷わず自分の斧を指さした。
「正直な人ですね。あなたの正直さに免じて、金と銀もあげましょう」
湖の精の申し出に、青年が首を振る。
「どうせくれるなら、おいら、あんたが欲しい」
湖の精が顔を赤くした。
こうして二人は末永く幸せに暮らしましたとさ。
でたしめでたし。