執務室に戻ったヒューストンは、今しがたキンバルから得た供述を吟味していた。
ヒューストンはオコーナーをよく知っている。
どう考えても、彼が裏切るとは思えなかった。
しかし、いくら極秘任務だといっても、あんな物を開発者から直接手に入れるとはおかしい。
今、あの女の身元を洗っているが、カンパニーの人間でないことだけは確かだ。
「一体、どうなっている」
そう呟いたとき、ドアがノックされた。
「入れ」
ヒューストンの言葉が終わらぬうちに、スコットが渋い顔をして入ってきた。
その顔を見るなり、ヒューストンは嫌な予感を覚えた。
「どうした?」
「キンバルが、死亡しました」
「なんだと!」
ヒューストンが声を荒げて立ち上がる。
「毒を飲んだんです」
「ちょっと待て、技術部の奴がなぜ毒なんか持っていた。それに、身体検査はしたんだろ」
ヒューストンの語気がますます荒くなる。
「奴は、心臓に持病があったんです。それで、常に薬を持ち歩いていました。そのことは、事前に確認済です。だからそのまま取り上げずにいたんですが、まさかその中に毒薬が混ざっていたとは、思いもしませんでした」
「だが、死なせたのはお前の落ち度だ。奴は訓練された人間じゃない。平気で毒を飲むとは思えない。なにか、感じるものがあったはずだ」
「お言葉を返すようですが」
ヒューストンに責められても、スコットの口調は落ち着いている。
「奴は独房へ入る前に、心臓を抱えて蹲ったんです。とても苦しそうでした。薬をと言うので私が飲ませたんです」
「すると、キンバルの薬に、誰かが毒を混ぜておいた可能性も考えられるな」
「多分、そうだと思います。奴は、自殺ができるような人間じゃありません。心臓を押さえて苦しみだしたのも演技とは思えませんし、私が薬を差し出したとき、とてもほっとした顔をしていましたから」
「口封じか」
ヒューストンが怪訝な顔をする。