「ほ~ わいらに逆らうんかい。兄ちゃん、ええ度胸しとるやないけ」

「女の前で格好つけるんもええけどな、痛い目に合いとうなかったら、大人しく引っ込んどれや、おおー」

「わいらはな、なにも取って食おう言うとるわけやあらへんのや。ちいっとばかりええ目みさせてもろうたら、それでええねん。せやから、兄ちゃんは少しの間目をつぶっとき」

 チンピラはそれぞれに、脅したりすかしたりして男に迫った。

「いや、そんなことを言われても」

 男は困ってはいるが、怯えた様子ではない。

「やかましい。おのれは、大人しゅうすっこんどれちゅうのんがわかれへんのんか。ええか、付いてきよったらいてまうど」

 チンピラの一人がそう凄むと、男を無視して女性の手を取り、強引に暗い路地裏へと引っ張っていった。

 女性はチンピラに引っ張られるままに、俯きながら付いていく。

が、その目には、見た目の可憐さからは想像もできない、不敵な光が宿っていた。

 その後を、あれだけ脅されたというのに、恐れる風もなく連れの男がのこのこと付いてくる。

 チンピラの一人がそれを見咎めて、つかつかと男に歩みよった。 

「兄ちゃん、わいらの言うたことがようわかってへんみたいやな。どうやら、少し痛い目をみんとあかんようやな」

 男に顔をくっつけるようにして睨みながら、精一杯凄んでみせた。

 それでも、男は怯む様子を見せない。

 それどころか、かすかに微笑んでいる。

「俺がいないと、あなた達は死にますよ」

 男が、意外なことを言った。

 チンピラの一人が、まじまじと男の顔を覗き込む。

 男は、真面目な顔をしてチンピラを見返している。

 どうやら、男は本気で言っているようだ。

「ワレ、少し、ここがおかしいんとちゃうか」

 呆れたチンピラの一人が、人差し指で自分の頭を指差した。

「そんなこと、どうでもええわ。こんなアホは、ちぃっとばかり痛い目に合わせたったらええのんや」

 別のチンピラがそう吠えて、男に殴りかかった。