「ごめんね、嫌な思いさせちゃって」

 店を出るなり、涼子が謝ってきた。

「謝らんでもええよ。別に、そんなに嫌な思いしてへんし。瑞輝さんも春香さんも、必死なんようわかるし」

 心中穏やかではなかったが、健一は努めて平静を装った。

「そう言ってもらうと助かるわ」

 涼子がホッとした顔をする。

「でも、団長が来んでよかったな。来とったらどないなっとったか、想像するだけでも恐ろしいわ」

「それは言えてるわね」

 涼子が笑った。

 だが、その笑みは、かすかに引き攣っていた。

「ねえ、麗さんと出会った、夜景の見える場所へ連れていってくれない?」

 涼子を送ろうと車を発進させた直後、涼子が言った。

 頼みとはいえ、どこか有無を言わせない口調だった。

「ええよ」

 気軽に返事したものの、涼子の意図を測りかねて、健一は戸惑っていた。

 目的地へ着くまで、二人は無言だった。

「ここが、その場所か。本当、素敵な眺めね」

 目を細めて、眼下にきらめく夜景を見下す涼子の背中まで伸ばした髪が、下から吹き上げてくる風にそよそよと靡いている。

「今日は、本当に悪かったわね」

 涼子が振り向く。

 夜景を背景に佇む涼子は、夜景を凌駕するほどの輝きを放っていた麗とは違い、夜景を配下に従えているように見えた。

 さしずめ、夜景の女王といったところか。

 まるで静と動だが、二人の本質は似通っているような気がした。

 だから健一は、二人に惹かれるのだろう。

 ひとりはかけがえのないパートナーとして、そして、もうひとりは大切な恋人として。