次に、事務所探し。

 客を持つ身となれば、交通の便がよく、どこへでも手軽に行ける場所を選ぶ必要がある。

 売上が見えない今は、それほど賃料をかけてはいられない。最低四人が働ける広さで立地条件がよく、賃料が安い物件を探すのに、また一週間を費やした。

 事務所が決まれば、机やロッカー、コピー機、ファックス、電話、それに一番大事な商売道具のコンピューターなどの購入と搬入、それに各種登録の手続きが待っていた。

 最後に、銀行口座の開設。

 健一は、対外的な信用を得るために、大手の都市銀行に口座を作ろうとした。

 昨今は、振り込め詐欺やマネーロンダリングなどにより、架空法人の口座が使われたりするため、法人の口座開設は大変である。

 地銀ならまだしも、大手銀行となれば、それはもう、もの凄く大変なのだ。

定款や会社の謄本などが必要となり、それを見ながら、窓口で色々と質問される。そ れは、質問というより尋問に近い。

 会社を作った動機から、何を主体として事業を成していくのか、定款や登記簿を見ながらあれこれと訊かれる。

 ここで、事業計画書も求められる。

 前述したように、いい加減な事業計画を立てていると、へたをすれば口座開設はお流れとなってしまう。

 これには、健一も辟易した。まるで犯罪者になった気分だった。

 やっと尋問が終わったと思ったら、今度は審査に数日要すると言われた。

 これ以上何を審査するのかよくわからないが、こちらは金を借りるわけではなく、ただ口座を作りたいだけなのだ。それは、銀行にとっても有り難い話ではないのか? 

 何か、今の世の中は間違っている。

 忸怩たる思いを抱いて、健一は銀行を後にした。

 ともあれ、一ヶ月後には無事、会社としてやっていけるだけの態勢が整っていた。

 登記だけは業者に任せたが、それ以外のことはすべて健一ひとりでやったので、一ヶ月などあっという間だった。

 こうして、健一の会社は産声をあげた。