黒猫は、夜道をスタスタと歩いてゆく。

 今日は快晴で、星明りが道を照らしている。

 十分も歩いた頃、駐車場が見えた。

 そこには、黒いワンボックスカーが二十台ほど停まっており、五十人ほどが車の周りを固めている。

 どれも手に機関銃らしきものを持っており、完全武装しているのがわかる。

「いるいる」

 カレンが嬉しそうな声をだす。

「どうやら、この猫は囮のようね」

 ターニャには、赤い金貨の算段が読めた。

 これまでの経緯をみても、細工をした猫一匹に全員を倒せるとは、赤い金貨も思っていないだろう。

 別荘を襲わなかったのは、罠におびき寄せたかったからだ。

「ふん、あそこに辿り着くまでに、地雷で吹っ飛ばそうって魂胆ね」

 カレンも、赤い金貨の魂胆を見破った。

「これみよがしに、うろうろしているな」

 桜井も、カレンの見立てに同意のようだ。

 桜井だけではなく、誰一人カレンの見立てに疑問を抱く者はいない。

「誰も、驚かないのね」

 この日本でそんなことを言おうものなら、普通は「まさか」という言葉が返ってくるだろう。

 いくら真冬の山上で人気のない場所とはいえ、地雷を埋めるなんて日本人にはとても想像できないか、受け入れられないことだ。

 が、ここにいる連中は違う。

 ここ数年、毎年死を賭して赤い金貨と戦ってきたのだ。

 それくらいは平気でやるだろうとの認識はじゅうぶん持っている。

 ターニャも、呆れた気持ちで言ったのではない。

 この連中の頼もしさが嬉しかったのだ。

「ま、あいつらやからな」

「そうですね。それくらのことは平気でやりそうですね」

 健一と真の会話も、いたって暢気だ。

 まるで、困った部下のような扱いをしている。

「で、どうすんでぇ」

 木島がカレンに目を向ける。

 こういう時、カレンは必ず突破する道具を持っている。

「そうね、どうしよっかな」

 さすがに地雷までは予想していなかったカレンは、いつものように焦らすわけではなく、本当にどうするか考えているようだ。

「これはちょっと想定外ね」

 ターニャも思案顔をしている。

「飛び道具なら打つ手はあるが、地雷とはな」

 桜井も、突破する方法が思いつかない。

「俺らに任せてくれへんか」

 言いながら、健一が新八を見た。

「了解です」

 健一の目に返事をしてから、新八が担いでいたリュックを降ろした。

「試せるチャンスが出来てよかったわね」

 涼子も、担いでいたリュックを降ろす。

「ほんまですね」

 良恵もリュックを降ろす。

 みんなは気付かなかったが、三人はいつの間にかリュックを背負っていた。

 三人がリュックを空け、中のものを取り出した。

 悟がワクワクした目で、それを見つめている。

 三人が取り出したのは、ネズミのような形をした、おもちゃのようなものだ。

 それが、ひとつのリュックに十体、全部で三十体ある。

「なに、それ?」

「自動地雷除去装置や」

 健一がスマホをポケットから取り出しなが答える。

「こいつの鼻には強力なセンサーが付いとってな、地雷に仕込んである火薬の匂いを探知するんや、10メートル先からな。で、探知したらまっしぐらにそこへ行って中に仕込んである爆弾、というより花火に近いけどな、それが破裂して地雷も吹っ飛ぶちゅうわけや」

「そんなもん作っとたんか」

 悟の目が輝いている。

「まあ、本もんの地雷で試したことはないから、やってみなわからんけどな」

「それにしても凄いやん。よう、そんなもん思いついたな」

「前に、カレンが地雷はやっかいやと言うとったからな」

 言葉とは裏腹に、健一の顔には自信が覗いている。

「あなた達、いつから武器商人になったの?」

 先日の爆弾探知機と解除装置に続いて、今日の黒猫に埋め込まれたチップの探査と無効化の装置、それにこの地雷除去装置と、ターニャが呆れるのも無理はない。

「武器商人やあらへんで」

「そうよ、私たちがこんなものを作っているのは、カレンさんとターニャさんのためよ」

「僕ら、お二人に死んでほしくないですから」

「お二人とも、いつも危険なお仕事をされているでしょう。だから、私たち、少しでもお二人のお役に立てればと思って」

 健一と涼子、それに新八と良恵みの言葉が、カレンとターニャの心に沁みる。

「ありがとうよ」

 二人の涙を掻き消したのは木島だ。

 木島は涙を隠そうともしない。

「俺たちもよ、なにかしてやりたいが、そんな技術もねえからな。本当に礼を言うぜ」

「俺も礼を言うよ」

 木島と善次郎の言葉に、みんながうんうんと頷く。

「こいつら、とんでもねえ連中だな。完全に違法だぜ」

「まあ、見なかったことにしとこうや」

「そうだな。どうせ後始末は俺たちがするんだからな」

「俺はマル暴だぜ、国際的な組織が絡んでちゃなにも出来ねえよ」

「まったく、ツケを払うのはいつも俺か」

 桜井と安藤がみんなに聴こえないように小声で言い合う。

「ほんなら、行くで」

「健たちが作ったものなら大丈夫ね」

 健一の言葉に、麗が微笑む。

「今年もいいネタが出来たわ」

 千飛里は、今日のことを舞台にするつもりだ。

「脚本はまかせてください」

 ここ最近のイシスの台本は春香が書いている、

 元々素質のあった春香は、ここ数年でめきめきと脚本の腕が上がった。

「また、今年も順調に行きそうね」

 瑞輝が笑顔を浮かべている。

「派手にぶちかましましょ」

 珍しく涼子が、好戦的な言葉を吐いた。

 これまでの道具の数々は、ほとんど涼子のアイデアだ。

 地雷除去装置を思い付いたのも涼子だ。

 ここ数年の赤い金貨との闘争から、涼子は数々の戦争の歴史と兵器を研究してきた。

 そして、カレンとターニャにとって必要であろうと思えるものをピックアップして、健一と相談しながら作ってきた。

 さきほど健一が言ったように、カレンの言葉も参考にしている。

 いつかカレンが地雷はやっかいだと言ったことがあり、それでこんなものを作った。

 今では、涼子は軍事オタクと言っていいくらい、いろんな武器に精通している。

「よっしゃ、ほな、いくで」

 健一がスマホをタップすると、三十体のネズミのおもちゃが一斉に走り出した。

 みんなは固唾を飲んでそれを見守っている。

 ただ、カレンとターニャは興味津々といった顔で、悟は無邪気に喜んでいる。

 先頭のネズミが方向を変えた。

 その途端、凄まじい音と共に地面が隆起し、土と草が宙に舞いがる。

 二匹目のネズミも地雷を探知して方向を変え、土と草を吹き飛ばした。

 そうやって、次々と地雷が破壊されていった。

 近くにあった地雷は誘爆を起こし、土煙が収まった時には、地面のそこここに大きな穴が開いていた。

 健一と涼子がハイタッチを交わす。

 良恵と新八もハイタッチを交わしている。

「やるわね」

 何が起こったのかわからず、赤い金貨の連中が右往左往している光景を腕を組んで見ながら、カレンが微笑を浮かべている。

「あれ、また作って私にくれるの?」

「そのために開発したんやからな」

「ありがとう」

 ターニャが暖かい笑みを浮かべた。

「本当に吹き飛ばしちまいやがった」

 桜井は驚きを通り越して呆れている。

「さ~て、突撃といきますか」

 明るい声で言ってカレンが走り出そうとした瞬間、黒猫が脱兎のごとく走り出して、赤い金貨の戦闘員の中に踊り入った。

 すべての地雷が吹き飛んで、なにが起こったのかわけがわからず狼狽えている戦闘員の中心にいる人物に、黒猫が襲いかかる。

「あいつが、猫を改造した人物か」

「立派に敵を討ててよかったな」

 木島と善次郎が目を細めて、赤い金貨の戦闘員を襲う黒猫を見ている。

 自分の仕込んだ毒で、その人物はあっという間に絶命した。

「負けてられないわね」

 カレンがムチを手にして走り出した。

 ターニャはどこから出したのか、両手に銃を握って、カレンに向けられた銃口を次々に狙って撃っている。

 カレンもターニャも、ここにいる連中の前では殺しはしない。

 いくら浮世離れした連中であっても、人が死ぬ姿は見せたくない。

 ターニャにしてみれば、眉間を撃ち抜けば確実に反撃してくることはないが、銃だけを狙って撃っていたのでは、戦闘力は残したままだ。

 まあ、素手であれば、ここにいる連中も負けていないことを知っているので、殺さずに済んでいるのもある。

 ターニャの銃撃に反撃する暇もなく、カレンが躍り込みムチを振るった。

 無造作に振るっているように見えて、銃を撃ち落とされていない連中に狙いを定め、手に持った銃を落としていった。

 本当はムチの一振りで倒せるのだが、カレンにしては珍しく他の連中に譲ろうとしているのだ。

 みんな猫好きのため溜飲を下げさせてやりたいのと、みんなの戦闘力がどれほど上がったのか確かめたいからだ。

 ターニャも同じ気持ちで、赤い金貨の戦闘員の銃を無効にした後は、二人は戦闘に加わることなく傍観者に回った。

「これで何度目や、おまえらええ加減にせんかい」

 雄たけびを上げるような声で叫びながら、健一が一瞬にして三人を倒した。

「おまえら、来年はこんな悪さが出来ねえよう、徹底的にぶちのめしてやるぜ」

 ここ数年の戦闘で、木島は完全に昔の姿を取り戻している。

「本当に、許せない」

「今年は、私も黙っていないわよ」

「女といって舐めないでね」

「私も、去年の私ではないわよ」

 涼子、ひとみ、美千代、里美が、凄まじい声を上げながら、赤い金貨の連中を倒してゆく。

 その光景に、他の連中の動きが止まった。

 みんな、呆気に取られている。

 ここ一年、四人は合気道や空手などの武道を習ってきた。

 ずぶの素人がたった人間が、たった一年で鍛え上げられた戦闘員を相手に、互角に戦えるわけはない。

 ましてや、倒すなんてあり得ないことだ。

 しかし、ここ数年の戦闘でずっと見守ることしか出来なかった悔しさと、猫を守りたい気持ちが常識を覆した。

「あらあら、まさかあの人たち」

「まったく、この連中ときたら」

 ターニャとカレンは、呆れるより嬉しそうだ。

「まいったな、これじゃ俺たちの出番がねえじゃねえか」

「ま、今日は高見の見物と洒落込もうじゃないか」

 安藤が桜井に煙草を渡す。

 桜井がそれを受け取り口に加えると、火を点けてやった。

「こいつらの潜在能力はどれだけあるんだ」

 ゆったりと紫煙を吐き出しながらも、桜井は呆れている。

「本当に、計り知れないよな」

 安藤も紫煙を吐き出しながら同意する。

「凄いな」

 あまりものに動じない悟も驚いている。

 一番驚いてるのは、健一、洋二、善次郎に敏夫だ。

「涼子、いつの間にそんな鍛えたんや」

「どう、私もやるでしょ」

 健一にウィンクしながら、赤い金貨の一人の手首を取って捻った。

 その戦闘員は宙に舞い、頭から地面に叩きつけられた。

「ひ、ひとみさん、いつの間に…」

「私も、もう傍観者は嫌なの」

 ひとみが、鋭い回し蹴りで敵の後頭部を蹴りながら、笑顔で答える。

「美千代、おまえ…」

「あなたにばかり危ない目に遭わせられないからね。それに、私も自分の力で猫を守りたいし」

 美千代が、肘で敵の脾腹を突きながら答える。

「里美…」

「美千代さんと同意見よ。それに、由香利を不幸にしたくないもの」

「お母さん…」

「お義母さん…」

 由香利と洋平が言葉に詰まった。

「おい、善ちゃん。こりゃ、今回は俺たちの出番はねえな」

「まったくだ」

 木島も、四人の女性の活躍に目を細めている。

「ようし、いっちょ私もやってやるかね」

「いや、文ちゃん、よしなって」

 木島が止めるのもきかず、文江が敵の中に躍り込んでいく。

 あっという間に三人が倒れた。

「どう、昔は彼氏の腕を折ったくらいよ。私も、この一年鍛えに鍛えたのよ」

 文江が満足そうな笑みを浮かべている。

「木島さん、あんた、これから悪さは出来ないな」

 善次郎が肩を叩くと、「まったくだ」と木島がうなづく。

「猫って、ここまで人を強くするものなのか」

「まったく、猫の力は偉大だな」

 桜井も安藤も、ポケット灰皿で煙草を消しながら妙に感心している。

 公安やマル暴いえど、マナーはきっちりと守っている。

「これは、面白い筋書きが出来そうやわ」

 千飛里は、もう頭に新し演目を思い浮かべている。

「春香、きっちり台本を仕上げてや」

「任せといてください」

 千飛里の言葉に、春香が大きく頷く。

「じゃあ、私もその台本に花を咲かせましょう」

 そう言って、麗が戦闘に飛び込み、敵の一人の脾腹に肘を打ち込み、崩れ折れるところを首筋に回し蹴りを叩き込んだ。

「麗、いつの間に?」

 健一が驚いた顔をした。。

「よりカレンさんの動きに近づきたいと思って、ずっと格闘技を習ってたのよ。そうしなければ、カレンさんに失礼だもの」

 イシスは、ここ数年カレンを題材にした演目で人気を高めている。

 麗は、より迫力を出すためと、言葉通りカレンに失礼だからと思って、健一に内緒で格闘技を習っていた。

 加えて、舞台稽古もハードであり、知らぬうちに大した腕前になっていた。

「黙っててごめんなさい」

「いや、そんなことはええ。惚れ直したで」

「ありがとう」

 千飛里と瑞樹も、桜井とターニャの役なので、それなりに腕は上達している。

「負けてられないわね」

 二人も、一人ずつ赤い金貨の戦闘員を倒す。

「私も」

 春香も一人倒した。

 悟の役なので、別に訓練する必要はないのだが、みんなに釣られてと、強くなっていた方が悟の不気味さを出せるのではないだろうかと思って鍛錬していた。

 イシスの面々から見ても、悟にはどこか得体の知れないものがある。

「俺、そんなに強うないで」

 悟が苦笑する。

「やるじゃない」

「せめてこれくらいの動きはできないと、カレンさんに失礼だから」

「嬉しいこと言ってくれるわね」

 カレンが目を細める。

 その間にも、赤い金貨との戦闘は続いている。

 次々に倒されていって、残るは二人だ。

 その二人を、洋平が一瞬で沈めた。

「洋ちゃん、ますます腕を上げたな」

 木島が善次郎に向かって言う。

「まったく、俺の子とは思えんね」

「そうね」

 善次郎も美千代も嬉しそうだ。

「由香利、頼もしい旦那でよかったな」

 敏夫が言うと、由香利がうんとうなづく。

「でもね、頼もしいだけじゃないのよ。とっても優しいの」

「そうだな」

「俺も、今年から格闘技を習おうかな」

 浩太も、負けてられないと思った。

 今年も、赤い金貨の完膚なきまでの敗北に終わった。

 毒を仕込んだ黒猫に逆襲されて死んだ一人を除いて、他に死者こそいないが、みんな暫くは動けないだろう。

 プロの戦闘員相手に、短期間の鍛錬でこれほどまでに戦える人間はそうそういない。

 というか、皆無といってもいいだろう。

 桜井の言うように、猫が個々人の潜在能力を最大限に引き出した。

「キャット・ガーディアンズ」

 カレンが、珍しく興奮しながら右手を突き上げた。

「キャット・ガーディアンズ」

 みんなも、それに倣う。

 ターニャも、右手を突き上げている。

「よく、案内してくれたな。それに、復讐を果たせてよかったな」

 木島が、黒猫の頭を優しく撫でる。

「にゃ~」

 黒猫は一声鳴くと、暗い夜道を歩き去っていった。

「堂々としてやがる」

「あいつも、借りを返せて満足なんじゃねえか」

 木島と善次郎が去り行く黒猫の後姿を眺めながら話しているとき、みんなは黒猫に手を振っていた。

「今回は、俺たちの出番があまりなかったな」

「そうですね」

 洋二と真は少し物足りなそうだ。

「俺たちもですよ」

「ほんと、今回はほとんど出番がなかったな」

 多田野と今池が悔しそうな顔をする。

「今年もいいものが見れてよかったな、巌ちゃん」

「ほんと、生きててよかったよ」

 古川と巌男は、ずっと酒を飲みながら高見の見物と洒落込んでいた。

「さあ、みんな続きをやろうぜ」

 健一が言ったとき、遠くからサイレンの音が響いてきた。

「毎年大変やろうけど、今日も頼むで」

 悟が、桜井と安藤の肩を叩く。

「しかたがねえな」

「さっさと済ましちまおうぜ」

 安藤が桜井に煙草を差し出す。

「待ってますよ」

「早く戻ってきてくださいね」

 麗やひとみが二人に声をかけて背を向けた。

 みんなも口々に同じような言葉をかけながら、別荘へと戻っていく。

「しかし、今日は驚いたな」

「ああ、まさか女性陣まで強くなっているとはな。あの人達を見てると、日本も捨てたもんじゃないと思えるよ」

「違げねえ」

 二人が煙草を携帯灰皿で消したとき、サイレンはすぐそこまで迫っていた。

 

 

出演

 

-絆・猫が変えてくれた人生-

 善次郎     

 美千代     

 洋平 

 

-プリティドール-

 カレン・ハート   ターニャ・キンスキー

 杉村 悟      桜井 健吾

 赤い守り神の戦闘員たち

 

-恋と夜景とお芝居と-

 秋月 健一     秋月 麗

 香山 涼子     夢咲 千飛里

 生田 良恵     紅 瑞輝

 田上 新八     吉野 春香

 

-真実の恋-

 日向 真

 実桜

 

-心ほぐします-

 杉田 敏夫     

 杉田 里美     

 杉田 浩太

 杉田 由香利

 清水 早苗

 綾乃(特別出演)

 

-夜明けを呼ぶ猫-

 平野 洋二     木島

 平野 ひとみ    文江

 平野 巌男     古川

 平野巌男の妻    安藤

 多田野      

 今池

 

脚本・監督

 冬月やまと     

 

2024年新春夢のオールスター・黒猫の矜持制作委員会

 

 

「遅くなっちまったな」

 そう言って桜井と安藤が入ってきたとき、みんながクラッカーを鳴らした。

「毎回の後始末お連れ様」

 ひとみが、二人にシャンパングラスを差し出す。

 二人は礼を言ってグラスを受け取り、一気に飲み干した。

「うめえな」

「こたえらませんね」

 この時ばかりは、二人の顔も緩んでいる。

「よっしゃ、みんな、今度は洋平君と由香利ちゃんの結婚を祈って乾杯するで」

 健一の掛け声と共に、みんながグラスを翳した。

「お幸せに」

 みんなには聴こえなかったが、新八と敏夫だけには綾乃の声が届いたようで、二人は天に向かって頭を下げた。