「ちょっと前までは、ただのバカやと思うとったら、腹も立たん言うとったやんか」
「我慢にもね、限度ってものがあるんよ。うちは、もうあいつには我慢ならへんの」
「おいおい、また関西弁になっとるで」
健一が、すかさず突っ込みを入れる。
「いけない。私ったら、どんどん健一に毒されていってるわね」
涼子が可愛らしく舌を出した。
「ちゃうやろ、それが涼子の地やろ」
健一が笑うと、「健一ったら」と言って、涼子が健一の肩を叩いた。
「でも、健一にしてはあっさりしてたわね」
溜まっていたものを吐き出して溜飲を下げたのか、それ以上杉林の文句を言うことなく、涼子が話題を変えてきた。
「そうですよ、私、もっと無茶苦茶言うてくれるのを期待してたのに」
涼子の言葉に、良恵が続く。
「あんな奴、もう、どうでもええねん」
健一が、さばさばとした口調で答える。
「あら、健一ったら、いつからそんなに大人になったの」
「大人になったわけやあらへん。俺は、このプロジェクトが終わったら辞めることに決めたんや。そやから、あんな奴を相手にする気ものうなってん」
健一の言葉に、三人の歩が止まった。
「本当に?」
涼子が、健一の目を覗き込んでくる。
健一が、黙って頷いた。
「ほんまですか?」
良恵と新八の嬉しそうな声が重なる。
「そっか、いよいよ健一も覚悟を決めたんだ。良かったね、二人共」
そう言って、良恵と新八の肩を抱いた涼子も、とても嬉しそうな顔をしていた。
三人の喜ぶ姿を見て、健一は決断してよかったと思った。
腐った環境に留まるよりも、全力を出し切れる環境を選んで正解だ。
先のことはわからへんが、俺たちが結束して力を出し合うたら、なんとかなるやろ。
喜び合う三人を見ていると、何となくそんな気がした。