「うわ~ 綺麗ですね」

 新八が、目を細める。

「僕、こんなの見たの初めてですよ。何だか、清々しいですね」

 嬉しそうに言って、窓際に駆け寄った。

 事務所は十階にある。

 周りに、肩を並べる建物はないので、昇る太陽を十分に拝むことができた。

 新八の努力を労うかのように、今日は快晴だ。

 新八が両腕を広げて、朝陽を身体一杯に浴びた。

「会社で眺める朝陽も、おつなもんやろ」

 健一が、新八の横に並んだ。

「そうですね。何かこう、一晩の苦労が報われた気がします」

 新八は最高の笑顔をしている。

 やるべきことを、全力でやっている者にしか創り出すことのできない笑顔だ。

 至福の時間は短い。

 朝陽は、直ぐに昇りきった。

 しかし、努力があるからこそ、たとえ短くても、至福の時を迎えられるのだ。

 次の新八の言葉が、それを如実に表している。

「もう、こんな時間なんですね。僕はまだ、二、三時間くらいしか経ってへんと思ってました」

 健一が、えも言われぬ笑みを、満面に浮かべた。

「それは、お前が集中しとったからや。俺も経験あるけど、ほんまに仕事に集中しとったら、一時間くらいしか経ってへん感覚やのに、気が付いたら外が明るかったなんていうことがあるんや」

「そうなんですか、秋月さんも経験あるんですね」

 新八が笑った。

 少しでも健一に近づけた気がして嬉しいのだろう。