「悪いけど、それはできない」
にゃん吉を、たんぽぽ荘の人達と離れさせたくなかった。
そんなことをすれば、みんな悲しむだろう。
今ではにゃん吉は、たんぽぽ荘みんなのアイドルなのだ。
それに、俺もみんなと離れる気にはなれない。
俺が親父に褒めれるくらいに成長したのも、たんぽぽ荘のみんなのお蔭だ。
そんな人々を置いて、一人だけ出ていくなんて、できやしない。
なにより、俺はみんなが好きだ。
いつ、たんぽぽ荘が取り壊されるかはわからないが、それまでは、あそこに住みついていようと決心している。
いや、その前に、会社を盛り立てて、マンションを建てようと思っている。
そうすれば、みんなの受け皿になる。
結局のところ、俺はずっとあの連中と一緒にいたいのだ、ニャン吉と共に。
「そうか、無理にとは言わんよ。おまえの好きにすればいいさ」
親父は、あっさりと認めてくれた。
「俺も、猫を飼おうかな」
親父の言葉に、俺はびっくりした。
「そう、驚いた顔するな。おまえは、猫を拾ってから変わった。それは間違いない」
親父の言葉に、俺はうなづき返した。
「あんなに頼りなかったおまえでも、こんなに変われるんだ」
「酷いな、その言葉。それが、息子に言う言葉かよ。まあ、当たってるけどさ」
俺は破顔した。
親父とこんな会話ができるのが、無性に嬉しかった。
「それさ。昔のおまえだったら、むくれてただろう。本当に、おまえは頼もしくなったよ」
親父も破顔する。
「もちろん、おまえには素質はあったろう」
親父が、突然真顔になる。