俺は、木島さん達に語ったことを、もう一度話して聞かせた。
「要は、多田野っていう人と、今池っていう人を抑えればいいんだね」
社内の人間関係を聞いただけで、文江さんは的確に状況を見抜いた。
文江さんの言う通り、多田野さんと今池さんは、創業以来の社員だ。
それだけに、自分達が支えてきたという自負がある。
実際には、親父に言われた通りのことしかやっていないのだが、当の本人達はそうは思っていない。
この二人さえこちらに取り込めれば、後の社員はコントロールできる。
「その通りです」
俺が正直に答える。
「明日、あたしの店に連れてきな」
文江さんに、なにか考えがあるみたいだ。
「あんた達にも協力してもらうよ」
文江さんが、木島さん達を見て笑った。
「いいけど、どうするんだい」
木島さんが、興味津々で尋ねる。
ここ最近こんなことが続いているので、木島さんもすっかり演技することが気に入っているようだ。
元ヤクザなのに、お茶目な人だ。
「僕もですか?」
「忙しいだろうけど、頼むよ。洋ちゃんのためにさ」
文江さんに拝まれては、安藤さんもうなづくしかなかった。
文江さんの好意はありがたいのだが、俺としては実力で認められなければ意味がないと思っている。
だから、取り込むような姑息な手段は用いたくないのが本音だ。
だが、それを言いづらい雰囲気が、この場には漂っている。
「洋ちゃん」
俺の忸怩たる胸の内を察したのか、文江さんが俺に険しい目を向けた。
「あんた甘いよ」
やっぱり、読まれていた。