こんなことじゃ、この会社の先は見えている。
親父にはわかっているだろうが、他の社員は、どうもわかっていなさそうだ。
俺を白眼視するくらいの気概があるのだったら、なぜ会社に貢献しようとしないのか。
多分、本人たちは貢献しているつもりなのだろう。
俺は決めた。
たとえ、どんな逆境に遭おうとも、絶対にこの会社を盛り立ててみせる。
そのためには、社員の協力が不可欠だ。
まずは、どうやって社員のやる気を引き起こさせるかを考えることにした。
人間、本当にやる気を出せば、どうしたらいいかを考えるものだ。
たんぽぽ荘に帰るなり、木島さんと古川さんがやってきた。珍しく、安藤さんもいた。非番らしい。
にゃん吉が、労うように、身体を何度も擦り付けてくる。
「どうだった」
開口一番 、木島さんが訊く。
俺は、今日一日のことを話した。
「サラリーマン根性が沁みついている人間に、やる気を起こさせるってなあ、こいつは難しいことだぞ」
木島さんが唸る。
「変化を嫌いますからね」
刑事である安藤さんも、ある程度サラリーマンのことはわかっているようだ。
「大衆なんて、そんなもんだよ。いつも口を開けて餌を待っている。餌をくれないと文句を言うくせに、そのくせ、自分からは進んで餌を貰いに行こうとしない」
ちょっと飛躍し過ぎのような気もするが、古川さんの言葉には含蓄がある。
「今日は、ふみちゃんもひとみちゃんも、早く帰って来るって言ってたからよ、それまでの間、飲んでいようや」
これだ。
木島さんは、なにかにかこつけて飲みたがる。
それだけあって、酒には滅法強い。
俺は、にゃん吉を拾ってから、随分と鍛えられた。
お蔭で、人並み以上に飲めるようになった。
それがいいことか悪いことかはわからない。
まあ、少しの酒で酔っ払うより、いいことだとしておこう。