「おばちゃん、コロッケパンひとつね」

「真一君、久し振りだね」

「うん、やっと長期休暇がもらえて、今日帰ってきた。ここのコロッケパンが食べたくてたまらなかったよ」

「嬉しいこと言ってくれるね。どうだい、アメリカは?」

「日本と文化はまったく違うけど、もう慣れたよ。ただ、あそこにはこのコロッケパンがなくて」

「それがね、ここにもなくなるんだよ」

「えっ? どういうこと?」

「今日で、この店を閉めるのさ」

「ほんとうに?」

「ほんとうだよ。この辺も、若い人はどんどん離れていってね、あんまりパンが売れなくなってね。それにもってきて、そこの高校が合併して廃校になっちまったしね。私も、もう歳だからね、そろそろ引退しようかと思ったってわけさ」

「そうか、しかたないな。でも、もうこのコロッケパンが食べられないと思ったら、寂しくなるな」

「真一君は、ずっとコロッケパンを買ってくれていたからね」

「世界で一番好きな食べ物だよ、このコロッケパンは」

「嬉しいこと言ってくれるね」

 二人は、暖かい笑みを交わし合った。