俺、平野洋二。二十八歳。
俺は、親父が経営するアパレル会社に無理やり入社させられたものの、ことあるごとに親父と対立して、勘当同然に会社を辞め、家を飛び出した。
二十八にもなって親と同居というのもおかしいが、俺は鼻息だけが荒い、世間知らずの若造だったってことだ。
あまり貯えのなかった俺は、たんぽぽ荘という、昭和の時代を色濃く残した文化住宅に移り住んだ。
たんぽぽ荘の住人は、どれも一癖も二癖もありそうな面々だったが、あまり関わりを持つことなく、派遣会社の契約社員として、毎日を無難に生きていた。
そんな俺が、ある日、黒い仔猫を拾った。
動物とは無縁だった俺が、縁とは不思議なものだ。
たんぽぽ壮で猫を飼ってよいのかどうかわからないので、住人にばれないようそうっと飼っていたのだが、仔猫の具合が悪くなり病院へと連れていった。
そして、とうとう住人にばれてしまった。
しかも、どう見てもヤクザだろうという、たんぽぽ荘で一番関わり合いになりたくない住人に。
その時から、俺の人生は劇的に変わってゆくことになる。
猫を拾っただけで、人生がこんなに変わるとは、まったく不思議なものだ。
どう変わったかって?
明日からその物語を話すから、まあ聞いてくれよな。