あの時、自分はまぎれもなく、カレンのために死んでもいいと思った。
その、命を懸けてもいいと思った女が、不器用なやり方ではあるが、自分から求婚してくれている。
悟に断れるはずがない。
押し当てられた銃口から、力が抜ける。
「本当に?」
カレンが、悟の顔を覗き込んでくる。
「ほんまや」
「嬉しい」
カレンが銃を放り投げて、悟にしがみついた。
「あ、イタタ」
傷口にカレンの胸が当たり、思わず悟が悲鳴をあげる。
「ごめんなさい」
殊勝に謝るカレンを、悟はこの上もなく愛おしく思った。
組織を抜けたにせよ、大人しくしている女ではない。
これからも、カレンは好んで危地に飛び込んでいくだろう。
悟には、そのことがよくわかっている。
カレン同様、悟も人に関心がない。
誰をも好きになることはなかった。
これまで付き合った女性も、ただ情報を引き出すために付き合っていたに過ぎず、会社の同僚にも心を許すことはなかった。
それは悟の生い立ちに起因しており、人との関りに関心を払うことができないでいた。
しかし、カレンと出会ってから、悟は変わった。
悟と出会ったカレンが変わったように。
二人は、出会うべくして出会った。
悟は、そう思っている。
これからは、カレンを守っていこう。
まさか、自分がこんな気持ちになるとはという戸惑いはあるが、心地よい風が悟の胸に吹いていた。