「だったら、おまえも武器を出せばいい」

 そう言いながら、趙がもう一本ナイフを、腰から引き抜いた。

「おまえごときに、武器はいらん」

 それを見ても、悟は落ち着き払っている。

 趙にとっては、この上もない屈辱だ。

「あの世で、後悔するんだな」

 凄まじい殺意を抱いて、趙がナイフを突き出す。

 今度は後ろには下がらず、悟はステップだけで身体の向きを変えて、趙のナイフを躱した。

 趙はナイフを交互に出して、悟を攻め立てる。

 時には突き、時には払い、時には斬り下げ、時には斬り上げる。

 その動きは、変幻自在だ。

 が、そんな攻撃も、悟には通用しない。

 これまでの戦いで趙の動きを見切っていた悟は、趙の繰り出すナイフを、なんなく躱してゆく。

 趙の額から、冷たい汗がしたたり落ちてくる。

 顔には、ありありと焦りの表情が浮かんでいる。

「そろそろ、終わりにしようか」

 趙のナイフを躱しながら、悟が呟いた。

 その口調は、余裕に持ちていた。

 多少息が荒くなっていた趙に、その悟の呟きが聞こえたかどうか、趙が右手のナイフを突き出した。

 それを身体を捻り避けた悟は、空を斬って伸びきった趙の肘に、戻る回転を利用して、思い切り拳を打ち込んだ。

 バキッという音と共に、趙の右手が奇妙な角度に折れ曲がる。

 趙が、絶叫する。

「武器を出した時点で、おまえは負けてた」

 そう言って、電光のごとき回し蹴りを、趙の側頭部に叩きつけた。

 最後は、あっけないものだった。

 趙は棒切れのように、床にぶっ倒れた。

 悟は、息ひとつ乱していない。

 劉より凄腕だったとはいえ、趙も悟の敵ではなかった。

「あの世で後悔するんは、おまえやったな」

 倒れた趙を見下ろしながら、悟が呟く。

「サトル」

 ちょうどその時、カレンの声が響いた。