「ものは言いようやな」

 淡々とした悟の言い方が、まるで趙を侮辱しているかのように聞こえる。

「自分の汚さを棚に上げておいて、綺麗ごとを言うんやない」

 凛とした悟の声。

「なんだと」

 趙の顔色が変わった。

「おまえを認めてやったんだぞ」

 怒りを押し殺しながら、趙が言う。

「おまえなんかに、認めてもらおうとは思わへん」

 悟は、まだ無表情なままだ。

「どう言い繕うたって、素手で勝てんと思うたから、あんな卑怯な振る舞いに出たんやろ。劉よりはましやが、所詮おまえもその程度の男か」

 悟の全身から、凄まじい気が放たれる。

 趙の背中が、ビリビリと音を立てるくらい震えた。

「殺し合いに、卑怯もクソもない」

 恐怖を振り払うように、趙が声を荒げた。

「勝てば、それでいいんだ。どんな手段を用いようが、生き残ったもの勝ちなんだよ」

これまでの風采の上がらぬ顔とは打って変わり、鬼のような形相になっている。

 力が互角同士の者の戦いは、心が動揺した方が負ける。

 趙は、悟に対して恐れを抱いた。

 だから、悟の意表を突いて勝ちにいこうとした。

 その攻撃を躱された時点で、趙は負けていた。

 それもわからぬくらい、趙は激高している。

 悟が見るところ、趙の激高は恐れの裏返しだ。

 趙ほどの者でも、命が惜しいとみえる。

 ぎりぎりのところで命のやり取りをすることになると思っていた悟は、落胆した。

「確かにそうやが、所詮、くだらん奴の言い訳やな」

 これまでにない蔑みの笑みを、悟が浮かべた。