「あなたを見かけて、懐かしくなってね」

 ターニャも、カップに口をつけた。

「そんなわけないだろ」

「この件に、あなたはどこまで関わっているの」

 桜井の言葉を聞き流して、ターニャが訊いてくる。

「そんなことを、俺が言うと思ってるのか」

「思わない」

「だろうな。実をいうとな、まだなにも関わっちゃいない。これから関わるがね」

「ということは、まだなにも掴んでいないということね」

「平たく言えば、そういうことだ」

「正直ね」

「君に、誤魔化しは通用しないんでね」

 カップを置いて、ターニャが笑みを浮かべた。

「で、俺に声をかけた訳は?」

 再び、桜井が問う。

「あなたに、協力してもらおうと思って」

 ターニャの目が、妖しく光る。

「俺に?」

「そう、あなたに」

「今の俺と君は、敵対関係にあるんだぜ。そんな俺に、なにを協力しろと」

「そうとは言えないわよ」

 ターニャの言葉に、桜井が考え込んだ。

 暗殺なのかなんなのかはわからないが、ターニャの狙いは、生島にほぼ間違いないと、桜井は睨んでいる。

 都知事が狙いだとすれば、自分とは敵対するはずだ。それが、そうではないと言ったターニャの真意はどこにあるのか。

「生島が、日本を破滅させるのを阻止するってか」

 ターニャが驚いた顔をする。

「なにも掴んでいないと言っておきながら、知ってるじゃない」

「勘さ」

 すました顔で、桜井が答える。

「勘?」

「そう、昨夜、菊池組の組長始め、組員が大勢殺られた。やったのは、ターニャ、君だろう」

「だったら、どうだっていうの」

 ターニャの目が、すっと細まった。