「いてこましたれ」

 リーダー格の男が言うと、手下の男共三人が、じりじりと俺に近寄ってきた。

 俺は東京から大阪に観光に来て、ただ繁華街を歩いていただけなのに、なぜか柄の悪い連中に因縁をつけられ、人気のない路地に連れてこられた。

「すみません、ちょっと質問いいですか?」

 その場の空気に似合わぬ明るい声で言って、俺は片手を上げた。

 にじり寄ってきた男共が戸惑いの表情を浮かべ、リーダー格の男を見る。

「なんや、おまえ」

 頭分は、少し呆れ気味に、少し怒った顔で、俺を睨みつけた。

「この状況で、なにが訊きたいんや」

 声を荒げる。

「いてこましたれって、どういう意味ですか?」

 ほんと、関西はわからない言葉が多すぎる。

 因縁をつけるのはいいが、もっと俺に理解できるように話してもらいたいものだ。

 でないと、俺も対処のしようがない。

「ボコボコにしろってことや」

「要するに、痛めつけろってことですか?」

「そうや」

「な~んだ、そういうことか」

 意味がわかった瞬間、おれは男共から背を向け、全速力で逃げた。