「そんな生温い言い方じゃ、目的なんて果たせやしないぜ」

 大声で注意を呼びかけている寿に、ひとりの若者が近寄ってきた。

「あんた、誰?」

 寿が、警戒するような眼で若者を見る。

「俺は、池野浩。あんた達の仲間になりたいと思っている」

 整った顔立ちをしているが、不敵な面構えをしている。拓真とは、また違った迫力があった。

「わかった。会長に紹介するよ」

浩の迫力に圧倒されながら、寿がか細い声で答えた。

「今の世の中を憂えているからです」

 会に入りたい理由を拓真に尋ねられて、浩はそう答えた。だが、拓真は額面通りには受け取らなかった。

 別に理由があるのではないか?

 拓真の見るところ、浩は世の中を憂えるタイプの人間のようには見えない。冷たく、どちらかと言えば、他人には関心を払うことなどないように見える。

 幾度となく修羅場を潜ってきた拓真でさえ、浩には、なにか得体の知れない不気味さを感じる。浩の表情からは、なにも読み取れない。無表情なのではない。表情はあるのだが、なにか仮面を被っているような感じなのだ。

 昔、拓真の知り合いのヤクザに、こんなタイプの男がいた。そいつは、ごく自然に笑いながら、平気で人を刺すような男だった。

 拓真は、そのヤクザと浩を重ね合わせた。

 自分の思い過ごしかもしれない。浩の整った顔立ちがそう思わせているだけで、胸には熱いものを秘めているのかもしれない。

 初対面で勝手な判断をするのはやめよう。

 そう思った拓真は、浩の加入を承諾した。

「言っておくが、この活動はボランティアで、賃金は一切出ない。それに、夕方から夜にかけての活動が多いし、休日は昼間から行っている」

 覚悟を試すように、説明する拓真に、

「大丈夫だ。俺は自宅でFXをやっているから、時間の都合はいくらでもつくし、金にも困っていない」

 浩がきっぱりと答える。

 恵が事故に遭った後、浩は勤めていた会社を辞めた。

 少しは蓄えがあったので、それで生活しながら、株の猛勉強をした。少しでも家に居て、恵の面倒をみてやりたかったからだ。

「そうか。なら、いい」

 拓真が頷いた。

「どうして、夕方から夜なんです?」

「朝だと、出勤前でみんな急いでるだろ。そんな時に声をかけても無駄だからだ。帰宅時間だったら、こちらが呼び止めても、話を聞いてくれる確率が高いからな」

 奴らのような、自分のことしか考えない身勝手な連中に、時間帯など関係あるものか。

 浩は心の中で嘲笑ったが、それを口には出さず、ただ黙って頷いた。

 目的を達成するためには、今ここで、会長である拓真に逆らうのはまずい。当面は無駄とも思える活動を、一生懸命する振りを演じなければならない。

「あなたみたいにきちんと考えている人が会長だったら、俺もやりがいがあります。これから、よろしくお願いします」

 当分の間だけどな。

 そう思いながら、浩が殊勝な顔で頭を下げる。

「こちらこそ、よろしくな」

 浩の心中など知るはずもない拓真が、豪快に笑って浩に握手を求めてきた。

 差し出された拓真の手をがっちりと握りながら、これで目的の第一歩を踏み出したと、浩は心の中で不敵な笑みを浮かべた。