素直にうなづいたあと、真剣な眼差しを、富樫が二人に向ける。
「わし、お二人に惚れてしまいました。どうか、舎弟にしてください」
富樫が頭を下げると、「わしもだす」伊集院も頭を下げた。
まさか、こんな展開になるとは。
悟が苦笑したが、カレンは無表情のままだ。
「富樫親分に伊集院さん、悪いけど、カレンは一匹狼なんや。だから、その件はあきらめたってや」
悟が、カレンに代わって答える。
「サトルの言う通り、私は仲間を持たない主義なの。私には、サトルさえいればいいの」
「そうですか」
これ以上押しても無駄ということがよくわかった富樫は、しょんぼりした顔で首を垂れた。伊集院も同様だ。
「でも、あんた達は気に入ったから、友達として付き合ってあげてもいいわよ」
カレンがこんなことを言うのは珍しい。言葉通り、この二人が気に入ったのだろう。
これまでのカレンにはなかったことだが、カレンのなにかが変わってきているのだと思い、悟は少し嬉しく思った。
カレンの言葉に、富樫と伊集院の顔が輝く。
「ありがとうございます。これからも、よろしゅうお願いします」
二人が、カレンに頭を下げた。
「悟さんも、よろしゅうに」
二人が、悟に向かっても頭を下げる。
「まあまあ、お二人さん。そんなにかしこまらんでも、ざっくばらんに仲良くやろうや」
悟は照れている。
「そうと決まったら、ご挨拶の盃を」
富樫が立ち上がりかけるのを、カレンが手で制した。
「今は、やめておくわ。この件が落ち着いたら、盛大に騒ぎましょ」
「そうそう、今はカレンは闘争のことで頭がいっぱいやからな」
「わかりました」
残念そうな顔をしながらも、富樫は素直にうなづいた。
名残惜しそうに見送る二人を後にして、悟とカレンは狼人会の事務所を後にした。
「なんか、気持ちのええ人らやな」
「そうね、この件が落ち着いたら、いろいろ獲物の情報を教えてくれそうね」
「友達って、それが目当てやったんか」
悟が、天を仰ぐ。
それでも、カレンもあの二人を気に入っているのは、悟にもわかっていた。
「また、桜井さんも来るんかな?」
「多分ね」
そんな会話を交わしながら、二人は腕を組んで、夜のミナミを歩いていた。