「大ありよ。詳しい話は後でするけど、またターニャも絡んでるみたい」
カレンの声は弾んでいる。
「ターニャが?」
「そう、それに、劉の後釜に座った人物も、ここに来ているそうよ」
ターニャまで絡むとなると、またとんでもないことになるだろう。
しかし、つい最近痛い目を見たばかりだというのに、赤い金貨も懲りずによくやると、悟は半ば呆れている。
「ここにって、この、大阪のミナミにか」
「くどい言い方ね。ここって、他にどこがあるの」
「それで、劉の後釜って、どんな奴や」
カレンの突っ込みを無視して、悟が尋ねる。
「それがね、劉に劣らず凶悪な奴らしいの。出身はわからないけど、人殺しが趣味なんだって。劉と同じようにサデスティックで、人を切り刻むのが無常の喜びらしいわ」
途方もない話を嬉々として語るカレンに、富樫と伊集院は薄気味悪さを通り越して、尊敬の念すら抱いた。
「よかったな、ええ遊び相手ができて」
悟が、ため息交じりに言う。
悟にはそれしか言い様がなかったのだが、富樫と伊集院は、悟にも尊敬の念を抱いたようだ。
武闘派で生きてきた二人だが、この二人にはとても敵わないと思った。
ヤクザとはまったく次元が違う世界だと、富樫も伊集院も痛感せずにおれない。
「ということで、あなた達の頼みを受けなくても、ミナミから赤い金貨の奴らを一掃するわよ」
「姐さん、わしらにも、なにか手伝わせてください」
富樫が、カレンに真剣な眼差しを向ける。
「気持ちは有難いけど、やめといたほうがええ」
答えたのは悟だ。
「ヤクザの闘争と違って、あいつらはマシンガンやらRPG7なんかを平気でぶっ放すから、とてもあんたらの手におえるもんやあらへん」
「マシンガンやRPG7?」
富樫と伊集院の目が丸くなる。
「それに、ターニャちゅう女性はロシアのスパイでな、カレンに負けず劣らずの腕やさかい、ほんまに戦争になるで。この間の事件も、激しい銃撃戦が何度もあったしな」
「サトルの言う通り、ミナミで戦争が起きるわね」
「そういうわけで、あんたらは半グレ共を抑えたってや。カレンはそこまで手が回らんと思うから」
「わかりやした」
富樫はうなづくしかなかった。