「まあ、そんなわけで、赤い金貨は今度は大阪でよからぬことを企んどるんやと思うで」

 なにがそんなわけなのかさっぱりわからないが、悟はカレンの突っ込みも無視して、したり顔でそう締めくくった。

 カレンも、悟にスルーされたことを怒るでもなく、後に続いた。

「そんなところね。みかじめ料なんてのは、カモフラージュでしょ。いわゆる陽動作戦っていうわけね。奴らは、絶対なにか大きなことを企んでる」

「だから、あんたら、赤い金貨の奴らを何人もいてこましてたら、そのうちえらい目に遭うで。まあ、今さら大人しゅうしとっても、もう遅いかもしれんけどな」

「それが、さっき言うてはった、黙っとってもいずれ害が及ぶいうことなんやな」

 富樫が腕組みをして、悟とカレンをじっと見つめた。

「話はわかりやした。赤い金貨ちゅうのが、どれだけ大きな組織か知らんし、バックに中国が付いてるかも知れねえが、このミナミでいいようにさせるわけにはいかねえ。どんな企みがあるかは知らねえが、あっしらは、命をかけて止めてみせるぜ」

 また、任侠映画になっとるやん。このおっさん、興奮するとこうかいな。

 悟は、もう面と向かって突っ込む気にはなれず、心の中でため息をついた。

「ところで、お二人はどういったご関係で」

 富樫が尋ねたのも無理はない。

 元CIAのトップシークレットの殺し屋と、ただの民間人だと言いきる二人の関係が気になるのは、至極当たり前のことだ。

「ご夫婦だとおっしゃってました」

 答えたのは伊集院だ。

「ふ・う・ふ」

 富樫が、一語一語区切るように繰り返す。

 悟とカレンが、同時にうなづく。

「きっかけは?」

 富樫は、興味を隠せない顔で訊く。

「私が惚れたの」

 富樫の問いに、カレンがしれっと答える。

 カレンの身分を聞いたときより、赤い金貨のことを聞いたときより、富樫は驚いた顔をしている。伊集院も、口をあんぐりと開けている。

「ワ・タ・シ・ガ・ホ・レ・タ」

 今度は二人揃って、一語一語区切るように、呆けた顔で繰り返す。

「ただの民間人や」

 富樫が悟を見て口を開きかけたのを察知して、悟が素早く言う。

「そ、その、ただの民間人が、どうして、殺し屋さんなんかと知りあったんですか」

 伊集院の疑問はもっともだ。

 誰でも、知りたいところだろう。