真が初めて店に来てから、四ヶ月近くになる。

 その間、真が店に来たのは七回ほどだ。

 来店回数としては、多いほうではない。

それでも、最初に同伴してから、必ず食事に誘ってくれるようになった。

 一度だけ、真の仕事の都合で時間が取れず、店の近所で落ち合ってくれた。

 何度目かのとき、店には同伴ポイントというものがあり、成績に響くという話をしたのを、真はしっかりと覚えてくれていたのだ。

 食事もしないで一緒に店へ入っただけで、同半料なるものを取られるのを承知で、そうしてくれた。

多分、頻繁に来れないことや、延長したりボトルを入れたりすることが出来ないのを負い目に感じているのだろう。それで、少しでも自分の特になることを考えてくれているのだ。

実桜には、それが痛いほどよくわかっている。

 そんな真の気持ちが、実桜には新鮮だったし、嬉しかった。

 大抵の客は、わずかのお金を惜しんで、そんなことはしてくれない。自分を指名してくれる客であっても、キャストの飲むドリンクをケチる男も、いっぱいいる。

わずか千円や二千円のお金を惜しむくらいなら、こんな店へ遊びに来なければいいのに。

そういったセコイ客に遭遇する度に、実桜はそう思う。

そういう客に限って、いっぱしの客面をする。

タチが悪いのも甚だしい。

 大金を使う客でも、紳士はそうはいない。

 高価なプレゼントをくれたり、高いお酒を入れてくれたりするものの、本当の意味で実桜に気を遣ってくれる男は滅多にいない。

お金さえ使えば、ブランド物のバッグや高い宝石さえ買い与えておけば、女はみな喜ぶものと勘違いしている男は非常に多い。

 確かに、そういう女性はいる。

 が、そういった女性も、片方では男に貢がせて、片方では好きな男に貢いでいたりする。

自分が贈った物が換金され、そのお金が彼氏に渡っていることを知ったら、どんな顔をするだろう。

 実桜は、男なんて、本当に馬鹿な人種だと思っている。

 まあ、まっとうな人間は、こんな店に来ないだろうし、来たとしても、楽しく飲んで帰るだけだ。一人のキャストに入れあげて、口説いたりはしない。

 そういった意味では、真は稀有な存在だった。

 普通、指名客といっても、大抵は三ヶ月くらいで来なくなる。飽きるか、落とせないと諦めて、他に落とせる女を求めて店を替えるのだ。

 真は、実桜をくどくこともなく、ただ他愛のないおしゃべりをするためだけに実桜と同伴し、店へ来てくれる。

 実桜にとっては、楽をして売上に繋げられるのだが、それでも、どこか物足りなかった。

 自分に気があるのか、ないのか?

実桜は、真の真意を測りかねていた。

 実桜がこんなことで戸惑い、悩むのは珍しい。

 いつもだったら、なにも考えずに、ただ良い客として接するだけなのに、真に対してはそれが出来なくなっている。

自分のことを好きだったら、デートしたいとは思わないのか?

抱きたいとは思わないのか?

男としては、当然の欲求だ。

その欲求を、果たして、抑え切れるものだろうか。

それを確かめるため、実桜は最近、わざと真に身体を密着させるようにして座っている。だが真は、自分から身体を密着させることもなく、離れることもなく、自然体で向き合っている。

真がもっと女ずれしているようだったら、自分から誘っていたかもしれない。

真の人の良さは、女性を傷つける。

実桜も、真に会うと嬉しい反面、どこか傷ついてもいた。

もっと、女性の気持ちを理解しろ。

そう、言いたかった。