後ろ姿がそっくりだった。

 僕は、慌ててその女性の後を追いかけた。

 しかし、人込みに紛れてしまって見失った。

 まさか久美子が。

 いや、あり得ない。

 久美子は、もうこの世にはいないのだ。

 あれから、何年になるのだろう。

 人生が嫌になっていた僕に、生きる希望を与えてくれた。

 短い時間だったが、久美子と過ごした1年は凄く充実していて、僕にとってはかけがえのない時間だった。

 久美子がいなくなってから、再び僕は生きる希望を失った。

 「なにがあっても生きるのよ」

 僕が久美子の後を追わなかったのは、いつも久美子がそう言っていたからだ。

 だが、久美子のいない世界に生きているのも、もう飽きた。

 それは、本当の生ではない。

 久美子と一緒に過ごした1年だけが、僕の人生と言えるだろう。

「もう、いいかな」

 ぽつりとつぶやいたとき、再び久美子にそっくりな後ろ姿の女性が見えた。

 僕は久美子と叫んで、その女性の後を追った。

 幻でもいい、再び久美子に会いたいという気持ちから。