私は、もう逃げないと誓った。
これまでの私は、現実から逃げてばかりいた。
だから、自分の非を認めようとはしなかった。
いつも誰かのせいにし、いつも世の中を嘆き、いつも不平や不満の世界にいた。
そんな私に、妻が愛想を尽かすのは当然だろう。
何度も励まされ、何度も怒られ、何度も叱咤されたが、その度に私は反発してきた。時には酷いことも言った。
失ってから大切なものがわかるという。
まさに、その通りだ。
妻が離婚届を置いて出ていってから、私は妻の大切さを痛感した。
だが、もう遅い。
いくら謝っても、いくら頼んでも、妻は戻ってこようとはしなかった。
「自分だけが不幸のような顔をしねいで」
妻の最後の言葉が、今も胸に残っている。
私は、そんな現実からも目を逸らそうとして、酒に溺れた。
虚しかった、寂しかった、悲しかった。
ある日、唐突にこれではいけないと思った。
こんなことをしていては、どんどん不幸になっていくだけだ。
いや、もう十分不幸だ。それも、すべては自ら招いたことだ。だから、私はもう逃げないと誓った。現実から目を逸らさず、自分と向き合うことに決めた。