「なんで、そう思うんや?」

 津村が、留美の顔を正面から見る。

「だって、そんなことをする顔には見えないでしょ」

 本気とも冗談ともつかぬ口調で、留美が答える。

「それだけか?」

 津村が呆れた顔をした。

「もちろん、それだけじゃないわ。トゥルーフレンズを作った奴はね、良心の呵責なんて感じないし、遺族に謝罪もしないし、自殺なんて、絶対しない」

「どうして、そう言いきれる?」

 今度は、藤岡が訊く。

「トゥルーフレンズは、邪悪そのものよ。人の弱みに付け込んで、人を死に追いやる。そんなものを作る奴が、自殺なんてするはずがない。この犯人はね、良心なんてかけらも持ってないわ。自分を神とでも思ってるのよ」

 断言する留美の口調には、絶対的な自信が込められている。

「留美ちゃんの言う通りやな」

 津村が頷いてから、先ほど電話で聞いた情報を、二人に話した。

「岡本は、携帯とスマホの違いもわからんような機械オンチやったそうや。もちろんパソコンも苦手で、よく若いもんに教えを請うていたそうや。そんな奴が、あんなものを作れるはずがあらへん」

「俺が聞いた情報も同じです」

藤岡が頷く。

「それなのに、マスコミへの発表は、岡本が犯人ということにしたわけ」

「岡本が、マスコミにも垂れ込んで自殺したからな。岡本の遺書があり、そこにトゥルーフレンズの真実とウィルスの解除方法が記されている以上、警察も違うとは言えんやろ」

「そうじゃないでしょ、警察にとっては、渡りに船だったんじゃない」

 留美が皮肉を込めた口調で、津村を見る。

「多分、そうやろな。今頃お偉方の連中は、自分たちがトゥルーフレンズを解析して、その情報をマスコミに流したために、追い詰められた犯人が観念して自殺したんやと、方々で偉そうに吹聴してるに違いないやろ。その証拠に、さっき電話で、本部長によくやったとお褒めの言葉をもろうたわ。あれだけ、俺を非難しとったのにな」

 津村が、吐き捨てるように言った。

「相変わらず、警察は腐ってるわね」

 留美の言葉に怒りもせず、津村が頷く。それから、留美の目を真剣に見つめた。

「そやけどな、腐ってるんは上の連中だけや。下のもんには、岩田みたいな奴がぎょうさんおるで」

「そうね、その通りね。ごめんなさい、私、酷いことを言ってしまって、岩田さんに申し訳ないわ」

 留美が目を伏せて、すまなさそうに頭を下げた。

「ええよ、気にせんでも。腐っとんのは事実やから」

 そう言って、津村が慰めるように、留美の肩を叩いた。

「岡本は、犯人とどういう関係なんでしょうか」

 黙って二人の会話を聞いていた藤岡が、口を挟んだ。

「多分、岡本の過去を知って、そそのかしたんだと思うわ」

「何のために?」

「私が思うには、この犯人は、トゥルーフレンズを何かの実験材料にしていたんだと思うの。多分、人類を破滅させるためのね」

  そこで、留美は岩田とのやり取りを、二人にかいつまんで話して聞かせた。

「そうか。それで、岡本を利用して実験したというわけか」

 津村が唸る。

「私は、そう思う。そして、他人に恨みを持つ人間が、どこまで残酷になれるかということも、試してみたんじゃないかしら」

「それは神やのうて、悪魔やな」

「そうよ。これを作った奴は、悪魔よ。こいつは、これだけでは終わらせないはず。近いうちにきっと、別の方法で大量殺戮の仕掛けをしてくるに違いないわ。今は、岡本の残した解除コードによって、追跡するルートを絶たれたけど、その時には、絶対に掴まえてみせる」

留美が、鬼女の顔になった。

岩田の復讐を誓った時に見せた、あの顔だ。

津村は、これからとてつもない事が起こりそうな予感がして、藤岡を見る。藤岡も、津村と同じ気持ちだったみたいで、津村の顔を見ていた。

留美は、岩田の弔い合戦ために、これからも危ない橋を渡るだろう。

「岩田よ、おまえの代わりに、留美ちゃんは、俺がきっと守ってみせる」

 津村は、天国の岩田に、心で誓っていた。