「待、ねえ」
敏夫が、カードを見ながら首を捻る。
綾乃と会った翌日、早苗は早速、敏夫に相談を持ちかけていた。
「そうなんです。ゆうべ一晩考えたんですけど、なにかを待つ以外思いつかなくって」
ため息混じりに、早苗が言う。
「う~ん」
敏夫は、まだカードを見ながら唸っている。
「他に、なにか意味があると思います? 裏の「自」と関連しているとか」
「いや、関係ないと思うな。これはきっと、言葉通りだよ。清水さんの言うように、なにかを待つという意味なんじゃないかな」
「ですよね」
早苗が、安心したような口調で答えた。
「でも、なにを待つんでしょう?」
「昨日、綾乃さんと、どういう会話をしたの?」
早苗が、綾乃との会話を、敏夫に話して聞かせた。
「綾乃さんは、あなたが彼氏と別れたいと言ったときに、施術を打ち切ったんだね」
話を聞き終えた敏夫が、確認するように訊いた。
「そうなんですよ。もう少し、なにかアドバイスをもらえるんじゃないかと期待してたんですけどね」
ちょっぴり残念そうに、早苗が答える。
「綾乃さんらしいな」
カードを返しながら、敏夫が微笑んでみせた。
「ねえ、わたし、なにを待ったらいいんでしょう?」
敏夫の顔を見て、なにかわかったに違いないと思った早苗は、カードを受け取りながら、もう一度尋ねた。
「あなたの最後の言葉がヒントさ」
「わたしの最後の言葉?」
「そうだよ」
「あっ」
早苗は、なにか思い当たったようだ。
「もしかして、彼氏と別れるのを待てというんでしょうか?」
「多分ね」
「そうか、そうですよね。それしかないわよね。なんで、わたしったら、こんな簡単なことに気が付かなかったのかしら」
「ふふ」
明るく頷く早苗を見て、敏夫が綾乃のような含み笑いを漏らした。
「いやだ、杉田さん。今の笑い、まるで綾乃さんみたいですよ」
早苗が軽く敏夫の肩を叩いた。
「そうか、すまん。でも、そう言ってもらえると、光栄のような気もするな」
「なに、言ってるんですか」
早苗に軽く睨まれて、「ハハハ」敏夫が面白そうに笑った。
「でも、わたしたちって、綾乃さんに頼ってばかりですよね」
突然、早苗が話題を変えた。しんみりした口調になっている。
「それは、違うと思うよ」
敏夫が穏やかな口調で答える。
「確かに、俺たちは綾乃さんに出会って変わった。でもね、綾乃さんは、俺たちが変わる指針を与えてくれただけで、決して、俺たちを変えてくれたわけじゃない。こう言ったらおこがましいが、変わったのは、自分の力なんだよ。だから清水さん。あなたは、もっと自信を持っていいと思うよ」
「そうなんですけど…」
「俺はね、清水さん。綾乃さんは、俺たちみたいな悩める人間に、蜘蛛の糸を垂らしてくれるだけなんだと思う。這い上がるのは、自分自身の力でどうぞってね。これまで、綾乃さんに出会った人間がどれだけいるかわからないけど、そのすべての人が救われたとは思わない。中には挫折した人もいるだろうし、カードに書かれている文字の意味がわからず、綾乃さんの糸に掴まれなかった人もいるかもしれない。綾乃さんは、ただ、きっかけを与えてくれているだけなんだ。そのチャンスをものにした者だけが救われる。俺は、そう思う。だから清水さん。俺たちはもっと自信を持とう。こんな俺たちの前に現れてくれた綾乃さんのためにもね」
敏夫が早苗を励ますおうに、語尾に力を込めた。
「そうね、杉田さんの言う通りかも。わかりました、わたし、もっと自分に自信を持ちます」
早苗が、右腕をまくって、細い腕に力瘤を作ってみせる真似をした。
「待、ねえ」
敏夫が、カードを見ながら首を捻る。
綾乃と会った翌日、早苗は早速、敏夫に相談を持ちかけていた。
「そうなんです。ゆうべ一晩考えたんですけど、なにかを待つ以外思いつかなくって」
ため息混じりに、早苗が言う。
「う~ん」
敏夫は、まだカードを見ながら唸っている。
「他に、なにか意味があると思います? 裏の「自」と関連しているとか」
「いや、関係ないと思うな。これはきっと、言葉通りだよ。清水さんの言うように、なにかを待つという意味なんじゃないかな」
「ですよね」
早苗が、安心したような口調で答えた。
「でも、なにを待つんでしょう?」
「昨日、綾乃さんと、どういう会話をしたの?」
早苗が、綾乃との会話を、敏夫に話して聞かせた。
「綾乃さんは、あなたが彼氏と別れたいと言ったときに、施術を打ち切ったんだね」
話を聞き終えた敏夫が、確認するように訊いた。
「そうなんですよ。もう少し、なにかアドバイスをもらえるんじゃないかと期待してたんですけどね」
ちょっぴり残念そうに、早苗が答える。
「綾乃さんらしいな」
カードを返しながら、敏夫が微笑んでみせた。
「ねえ、わたし、なにを待ったらいいんでしょう?」
敏夫の顔を見て、なにかわかったに違いないと思った早苗は、カードを受け取りながら、もう一度尋ねた。
「あなたの最後の言葉がヒントさ」
「わたしの最後の言葉?」
「そうだよ」
「あっ」
早苗は、なにか思い当たったようだ。
「もしかして、彼氏と別れるのを待てというんでしょうか?」
「多分ね」
「そうか、そうですよね。それしかないわよね。なんで、わたしったら、こんな簡単なことに気が付かなかったのかしら」
「ふふ」
明るく頷く早苗を見て、敏夫が綾乃のような含み笑いを漏らした。
「いやだ、杉田さん。今の笑い、まるで綾乃さんみたいですよ」
早苗が軽く敏夫の肩を叩いた。
「そうか、すまん。でも、そう言ってもらえると、光栄のような気もするな」
「なに、言ってるんですか」
早苗に軽く睨まれて、「ハハハ」敏夫が面白そうに笑った。
「でも、わたしたちって、綾乃さんに頼ってばかりですよね」
突然、早苗が話題を変えた。しんみりした口調になっている。
「それは、違うと思うよ」
敏夫が穏やかな口調で答える。
「確かに、俺たちは綾乃さんに出会って変わった。でもね、綾乃さんは、俺たちが変わる指針を与えてくれただけで、決して、俺たちを変えてくれたわけじゃない。こう言ったらおこがましいが、変わったのは、自分の力なんだよ。だから清水さん。あなたは、もっと自信を持っていいと思うよ」
「そうなんですけど…」
「俺はね、清水さん。綾乃さんは、俺たちみたいな悩める人間に、蜘蛛の糸を垂らしてくれるだけなんだと思う。這い上がるのは、自分自身の力でどうぞってね。これまで、綾乃さんに出会った人間がどれだけいるかわからないけど、そのすべての人が救われたとは思わない。中には挫折した人もいるだろうし、カードに書かれている文字の意味がわからず、綾乃さんの糸に掴まれなかった人もいるかもしれない。綾乃さんは、ただ、きっかけを与えてくれているだけなんだ。そのチャンスをものにした者だけが救われる。俺は、そう思う。だから清水さん。俺たちはもっと自信を持とう。こんな俺たちの前に現れてくれた綾乃さんのためにもね」
敏夫が早苗を励ますように、語尾に力を込めた。
「そうね、杉田さんの言う通りかも。わかりました、わたし、もっと自分に自信を持ちます」
早苗が、右腕をまくって、細い腕に力瘤を作ってみせる真似をした。