ネットで殺処分の現状を知ってから一週間。

 

善次郎の落ち込みは、まだ続いていた。

 

毎日、殺される犬や猫のことを思い、悶々としていた。

 

自分一人の力で、殺処分されるすべての犬や猫を救うことはできない。

 

せめて、活だけでも守ろう。

 

自分ができることはそれしかない。

 

そう思ってはいるものの、それでも、簡単に割り切ることができないでいた。

 

善次郎はこれまで、特に動物に興味があったわけではない。

 

どちかといえば、あまり好きではなかった。触るのも嫌だったし、舐められるのはもっと嫌だった。


しかし、活と生活を共にするようになって変わった。

 

ペットを飼えば癒される。

 

巷では、よく言われることだ。

 

確かに、その通り。だが、それは飼っているペットのことをすべて受け入れての話だ。


犬や猫も生きている。生きている限り、食事もするし排泄もする。それに、人間の言葉を離せない。

 

飼う側は、それだけ手間が掛かるということだ。

 

餌を与え、排泄の始末をする。

 

毎日様子を窺い、おかしなところはないか、病気ではないかと気を付ける。鳴き声や仕草で、何を訴えているかを推察する。

 

放ったらかしにもできないので、旅行にも行けない。


犬や猫と真摯に向き合えば向き合うほど、ストレスが溜まる。そんなことを毎日続けていると、本気で嫌になる時もあるだろう。


善次郎は思う。

 

命を大切にし、動物を心の底から愛せるものだけが、本当に癒される。

 

ペットとはそういうものだ。いわば、共存共栄の関係なのだ。

 

それが煩わしいと感じるのなら、ぬいぐるみでも置いておけばいい。

 

そういえば、最近野良犬を見なくなった。

 

野良猫はよく見かけるが、犬はまったくといって良いほど見ない。

 

猫より犬のほうが危険なので、見かければ直ぐ捕獲されるというのもあるのだろうが、殺処分の数は猫より少ない。

 

山に捨てられて野生化しているという記事も見かけたが、野良猫よりは少ないと思われる。


なぜだろう?


散歩に連れていかなくてもいいし、犬より小さい。

 

そういったことで、多分、猫の方が手が掛からないと思われているのだろうか?

 

そして飼ってみて、それが間違いだというこに気付き、持て余した挙句捨ててしまう。

 

そういったことではないか。

 

また、ネットの影響も大きい。

 

善次郎が感銘を受けたようなサイトも数多くあるが、普通の人は、そんなサイトはあまり見ないに違いない。

 

それより、可愛い動画の方を、より多くの人が見ている。

 

滑り込んで袋に入る姿、掃除機やモップの上に乗って、飼い主が動かすのにしがみついている姿、飼い主の肩に飛び乗る姿。

 

それらの動画を見て可愛いと思い、自分も飼ってみたいと思う。


動画サイトには、普段の姿はアップされていない。そんな姿をアップしても、面白くもなんともないからだ。

 

知らない人が見れば、猫を飼えばいつもあんな面白いことをするんだと思う人もいるだろう。

 

そして、ペットショップに行く。


日本のペットショップも、本当に動物のことを考えている店は少ない。

 

売れればいいのだ。

 

だから、売る相手は選ばない。

 

一生可愛がってくれるかどうかの判断をする店が、どれだけあるのか?

 

そして、動物を飼うことがどれだけ大変かということを、売る時にきちんと説明する店が、どれだけあるのか?

 

そうでなければ、生後一ケ月に満たない赤ちゃんを店に置いておくなんてことはしないはずだ。

 

法律で禁止されているにも関わらず、未だ平気で売っている店がある。


善次郎は、ペットショップの保険の在り方にも疑問を感じている。

 

買ってから一定期間の間にその生体が死んだりすれば、別の生体と取り換えるというやつだ。

 

まるで、電化製品と同じ扱いではないか。

 

ふざけているのにもほどがある。

 

どれだけ、命を軽くみているのか。

 

猫でも犬でも、買った瞬間から家族なのだ。

 

それが、たとえ一日で死んだとしても、別の生体を貰って喜べるわけがない。

 

売る側も保険に入る側も、なにか勘違いしているとしか言いようがない。

 

こんなのはサービスとはいえない。

 

命に対する冒とくだ。

 

善次郎は、餌を買いにいっても、生体を見ることはしなかった。

 

見れば、可愛いというより、可哀想という気持ちになるからだ。

 

狭いスペースに押し込まれた犬や猫たち。生後間もない生体は高いのに、売れ残り、大きくなった生体は値引きされている。


これも、電化製品と同じ扱いだ。

 

最初からもう少し安くしておけば、命を長らえることができたろうに。

 

そういった目でしか見れなくなっていた。

 

まさか自分が、こんなになるとは思いもしなかった。


ともあれ、いくら悩んでも、この問題は絶対に解決しない。

 

今の善次郎にできることは、恵まれない環境にいるペットを救おうとしている団体に、少しでも協力することだけだ。


街でそんな団体が募金を呼び掛けていると、迷わず寄付するようになった。

 

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