- 隆 慶一郎
- 鬼麿斬人剣
(おにまろざんじんけん)
隆慶一郎が描く刀工の弟子・鬼麿の奇妙な旅。
四谷正宗と呼ばれた名刀工・山浦環源清麿が、金に困って心ならずも残した粗悪な刀。
「あんなもの残してゆくかと思うと……俺は……俺は……」
「折、折ってくれ、一振り残らず。さがし出して……」
中山道から野麦峠、丹波路、山陰道と、刀を探し折る旅に出る。
主役である鬼麿は、まさに異色。
出自は、隆慶一郎の作品らしく、山人である山窩の一族。
刀法も通常のものではなく、腹を突き出すようにして体を反らせ、腕を大きく後ろに振りかぶった据物斬りの形。
そこから目をつぶり、剣尖の届く円内のものをことごとく斬る。
この鬼麿をつけ狙う伊賀組との凄絶な死闘が、本作の醍醐味だろう。
最終盤、かやの里に師・清麿が残した刀を、分解再生する焼直しに没頭する鬼麿。
十日間の作業の後、仕上がった刀を砥石にかけながら、その刀の肌の美しさに、胸を震わせ、涙をこぼす。
「刀鍛冶以外にこの悦びを知る者は、誰一人いないだろう」
その仕事ごとに、醍醐味というものはあるはずだ。
しかし、それを知ることができるのは、本当の意味でその仕事に没頭したことのある者だけなのだろう。
職業人として、何とかそこまでたどり着きたいと思う。