三重県産の蛤とバイ貝
贔屓にしている地元の魚屋でも三重県産の蛤を目にすることは少ない。
普段売場に並ぶのは、ほとんどが千葉県産である。
千葉だって日本を代表する蛤の産地なんだからケチをつける気持ちは毛頭ない。
それでも、蛤といえば三重の桑名。
「その手は桑名の焼き蛤」のことわざがすぐ口を衝いて出る私のような者にとっては、
段違いのブランド差を感じるのである。
ここまで三重県産の蛤を褒めそやしておきながら何だが、
一昨晩のわが家の食卓に鎮座したのは蛤ではない。
バイ貝である。
三重の海でうまいバイ貝が採れることを魚屋の大将から聞いて、
その日の酒の肴の主役はバイ貝に譲ったのである。
バイ貝には黒バイ貝と白バイ貝があるが、黒バイ貝の方が上等とされ、
なかでも三重県産のものは高級なんだそうだ。
確かにうまかった。
大きな個体もあって食べごたえもある。
しかし、やっぱり蛤なんだな。
この日は脇役に徹し、わずか2個のお出ましであったが、味わい深さで圧倒していた。
値段も蛤の方が数が少ないのに変わらない。
つまり報酬でも蛤の方が格上ってこと。
役者が違うんだな。
「主役の座はそう簡単には譲らないよ」。
そんな台詞が蛤から聞こえてきそうだった。