バーバリーのコート
40歳を超えたらビジネスコートはバーバリーと決めていた。
私の父親世代が「いつかはクラウン」と心に決めて仕事に励んだ感覚に似ているかな。
その想いを貫いてずっと愛用してきたコートがお役御免の頃合いを迎えた。
裾や袖がほつれ、生地もだいぶくたびれてきた。
それを見かねた妻から廃棄のお達しが出て、私も捨てる覚悟を決めたのだ。
すでに新しいコートも買い求めた。
ただ、今生の別れとなると何とも切ない気分になり、未練がましく私はコートの命乞いを妻に申し出た。
せめてこの冬のシーズンだけでも着られるように・・・。
「姫君、何とぞ、温情ある裁きをお下しください」。
こんな感じで下手に出たのが功を奏したのか、もうしばらくはこのコートと一緒にいられることとなった。
ここ数日は慈しむように着ている。
ただ、気がかりなことが一つある。
わが家の姫君、いやお代官さま風情といった感じの妻が、突然心変わりし、
私のいないときに捨ててしまわぬかと気が気でないのだ。
その不測の事態に備えて、思い出の記念写真をすでに何枚か撮っておいたのである。