『MAD MEN』に夢中になった理由
1960年代のNYを舞台に、広告マンたちの野心と欲望にまみれた日々を
きめ細かく描いたドラマ『MAD MEN/マッドメン』のDVD全巻を見終わった。
郵送で送られてくるレンタルビデオをこれほど心待ちにした体験は人生初めてかもしれない。
広告代理店のクリエイティブ・ディレクター役を演じる主人公のドン・ドレイバーと
自分の職種が近いこともあり、彼の一挙手一投足から目を離すことができなかったのだ。
それだけではない。
登場人物たちの着こなすファッションもこのドラマのたのしみになっていた。
男優陣の装いもさることながら、女性キャストのハイセンスな着こなしは、
刮目に値するほどのクオリティの高さだった。
「まずはロングライン・ブラにガードル、ストッキング、スリップ!」
これは、番組の衣装デザイナー、ジェイニー・ブラアント氏が
ドラマづくりの際に発した言葉であるが、このメッセージは『MAD MEN』における
衣装コンセプトの基軸をよく表していると思う。
カーヴィーなボディをいっそう強調するタイトなワンピース、
TPOをわきまえたドレッシーなテーラードジャケットなど、クラシカルでありながら
秘めた大人の色気を漂わせるファッションのオンパレードなのである。
せめて妻にも二人で出かける記念日の食事や観劇をたのしむときぐらいは、
こんなファッションを真似て欲しいと思うが、
口に出して言ってみたところで大抵は瞬時に却下されてオシマイ。
それどころか、私の嗜好がヘンだと責め立てられることもある。
私だって黙っていない。ときには反撃に出ることもある。
先月もファッションに楽チンさばかりを求める妻を牽制しようと、
『ハーパーズ バザー』を買って、これみよがしにソファーに置いておいた。
ところが妻は、一瞥をくれただけで手に取ろうともしなかった。
私が『MAD MEN』に夢中になった本当の理由は、
満たされないおもいをこのDVDで埋めていたからかもしれない。